
■経済学の一般常識が通用しない株価上昇
たとえば、経済学の一般常識では、インフレが進行すると、株価は上昇するか、上昇すしやすくなる。ただし、必ずしもすべての株価が上昇するわけではない。企業業績によるからだ。
一般的にインフレの下では製品価格が上昇するので、その分の利益が見せかけでも増加すれば、その企業の株価は上がる。しかし、インフレによって原材料のコスト増が利益を圧迫する企業の場合は、株価は下がる。
しかし、いまはインフレを超えたスタグフレーションだというのに、ほぼすべての企業の株価、そしてインデックスまで上がっている。おかしくないだろうか?
もう一つ不思議なのは、現在、日米ともに、国債の金利が上昇している。これは、国債の累積残高がとんでもない額に膨れ上がっているからだが、経済学の一般常識では債券と株式の値動きは逆相関にある。すなわち、金利が下がると株価は上がり、金利が上がると株価は下がる。
なのに、どうだろうか? 日米ともに長期債の金利が上昇しているというのに、株価は下がる気配もないのだ。
■膨大な国債残高が招く通貨、株式の暴落
現在、アメリカ国債の累積残高は、約36兆ドル(ドル円150円換算で約5400兆円)と、途方もない額に達している。そして、アメリカ財務省は、毎年、償還期限がくる国債約10兆ドルを、新規国債を発行して借り換えているが、利払いが約1兆ドルあるとされる。つまり、アメリカ政府は合計約11兆ドルという記録的な額の国債発行が必要となっている。
この状況が果たして続くのだろうか? 国債の買い手がやがていなくなる可能性がある。だから、長期金利がじわじわと上がっている。
これは日本も同じだ。日本国債の累積残高は、2025年度末に普通国債残高で1129兆円に達すると予想されている。その利払い費は毎年増え続け、現在、概算要求中の来年度予算では、国債費約32兆円中の約4兆円となっている。
このような国債の大量発行が長期金利を押し上げ、やがて通貨、株式の暴落を引き起こす危険性があるが、市場はいまのところ、それを無視している。
もし、中央銀行が紙幣を発行して国債を買い上げる(=財政ファイナンス)と、マネーが市場に溢れてハイパーインフレを引き起こす可能性もある。そうなれば、株価は大暴落する。
■世界中に溢れた金融緩和マネーが株に向かった
以上、簡単に言うと、景気がよくない、そのうえ財政危機が拡大しているのに株価が上がるのはおかしいと言うことを述べてきたが、もうこんな理屈は通用しない。株価と景気、財政危機は関連しない。そう思えば、言えることは一つしかない。
世界中、カネ余り、マネーが溢れているから、ともかく上がるところに向かう。金(ゴールド)、ビットコインなどと同じように、株が買われると言うことだろう。それでも、銘柄選びはあるので、マネーが向かう先はAI、半導体、ハイテク分野ということになる。
実際、コロナのパンデミックもあって、世界中の中央銀行が金融緩和を行い、市場に大量のマネーが供給された。FRBはもとより、欧州ECBもユーロを大量に供給した。だから、ドイツ株も今年になって史上最高値をつけた。日本株も同じと言える。
この続きは10月10日(金)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入
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