2025年11月12日 NEWS DAILY CONTENTS

NY市民の62%「生活費が足りない」 新指標TCESが示す実態と対応策

ニューヨーク市民の約3分の2が経済的に不安定な状況にあるとの報告を、私立総合大学ニュースクールの研究機関、センター・フォー・ニューヨークシティ・アフェアーズ(The Center for New York City Affairs)が5日、発表した。実態と対応策をまとめている。

ニューヨーク市は、生まれ育った者も移住した者も皆が繁栄できる場所なのか?それとも、世代を超えた富の受益者だけにその特権が与えられる場所なのか?TCESの調査結果は本質的な問いを投げかけている。写真はイメージ(photo: Unsplash / Danny Greenberg)

生活に必要な実質的コストを示す新指標「TCES(True Cost of Economic Security)」によると、市民の62%が家計の安定水準に達していない。TCESは生活費に加え、貯蓄、住宅、医療、税金、緊急支出などを考慮し、安定した暮らしに必要な収入水準を示す。TCESを下回る世帯が自立するには、年間平均4万600ドル(子育て世帯は5万2600ドル)の追加収入が必要とされる。

報告書は状況改善に向けて以下の4点を提言している。

実態その1)低・中所得労働者の実質賃金は2019〜23年、それぞれ2.8%、2.4%減少

ニューヨーク市の最低賃金(時給16.50ドル)は年換算で約3万4320ドル。しかし、子どものいない単身世帯が経済的安定を保つには、その倍の収入が必要。最低賃金以上の賃金を得ている労働者でさえ経済的安定から締め出されている。

対策=最低賃金引き上げに加え、チップ制・障害者労働者へのサブミニマム賃金(最低賃金未満)の廃止。低・中所得者双方の賃金引上げ、所得支援や税額控除の対象拡大、支援資格の資産上限緩和の検討。

実態その2)高額な住宅費が家計を圧迫、子育て・医療費・税金も高い負担を強いられている

経済的安全保障基準を下回るニューヨーク市の世帯にとって、住宅費は45%という圧倒的な割合を占める。市の公立病院患者の70%以上がメディケイド(低所得者層を対象とした、連邦政府と州政府が共同で運営する公的医療扶助制度)に依存、もしくは無保険状態だ。メディケイド患者数の減少、政府資金の縮小、支払い率の低下により、既に薄利で運営している公立病院システム(H + H Hospitals)は閉鎖やサービス縮小の危機に直面している。

対策=家賃補助、公共住宅の拡充、所得連動型住宅の増設。保育プログラム、放課後活動、3〜4歳児全員を対象とした就学前教育を所得に応じ段階的料金体系で全額提供。TCES指標の最下位層の家族をターゲットとし、段階的に上位層へ拡大する。公立病院の資金不足分は市からの資金増額で補填。経済的不安定層に対する減税や還付可能な税額控除。

実態その3)低所得世帯は退職口座などへのアクセスが乏しい

401(k)、403(b)、IRAプランなどの税制優遇退職口座は、特に雇用主拠出がある場合、貯蓄形成と税負担軽減に寄与する。しかし、低所得世帯ではこれらの口座を持つ割合が少ない(高所得世帯が10倍多い)。

対策=新たな所得支援と還付可能な税額控除による基本所得の保証。出生時に全児童に提供され、段階的に資金が積み立てられる公的資金による信託口座「ベビーボンド」の導入。若年成人期に利用可能となるベビーボンドは、教育・住宅購入・起業といった資産形成機会への投資資金となる「スタートアップ資本」となる。

実態その4)格差社会の縮図、ブロンクス

ブロンクスの全世帯の78%、子育て世帯の88%が経済的に不安定である。

対策=政策対応が必要な地域を特定し、地域密着型政策を検討する。地域密着型解決策は多様な形態をとり得るが、いずれも最も支援を必要とする人々の生活改善に焦点を当てなければならない。

編集部のつぶやき

東京都福祉局のデータによれば、2022年の東京の貧困率(生活保護受給率)は19.8%。厚生労働省のデータによれば、21年の日本の貧困率は15.4%で、OECD加盟国の中でも高い水準だ。これは国民の約6人に1人が、世帯の可処分所得が中央値の50%に満たない貧困ライン以下であることを示している。特に一人親世帯の貧困率は44.5%と極めて高く、深刻な状況にある。日本とアメリカでは社会システムが異なるため一概には言えないが、今回の提言は、日本における格差解消に向けての取り組みの一助となるかもしれない。

                       
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