ニューヨーク(NY)で、若きゾーラン・マムダニ氏(34)が市長に当選したことを、多くの日本人が驚いている。トランプ大統領から「共産主義者」として敵視され、自らを「民主社会主義者」と称する移民で、イスラム教徒。なんで、こんな人物が、世界の中心地のトップになるのかという驚きだ。
私も彼が有力視されるようになるまでは、なぜ彼がそこまで支持されるのか、深く考えていなかった。しかし、知れば知るほど、その理由があまりにシンプルだということがわかって納得した。
NYの変化は、いずれ世界に波及する。はたして、NYはマムダニ市長で変わるのか?
*今回は長くなるので、前編、後編の2回に分けて配信します。

■ニューススタンドのコーヒー価格ですら日本の2倍
コロナ禍以後、私はNYに行っていない。コロナ禍になって、それまで6年間マンハッタンに住んでいた娘が帰国したこと、知人、友人もほとんどいなくなったことで、すっかり足が遠のいたからだ。そして、もう一つ、大きな理由がある。
円安である。円安の影響で、高くなった航空券代、ホテル代、飲食代などの負担が大きすぎるからだ。
報道を見ていても、現地の知人、観光・ビジネスで行った知人の話を聞いても、いまのNYの物価は円換算すると異常に高い。
娘がNYにいた頃は、早朝によく、近所のマジソンパークに行き、ニューススタンドで買ったコーヒーを飲みながらベンチに座った。ドッグランを走り回る犬たちやフラットアイアンビルを眺めながら、しばらくぼうっとしていた。
そのコーヒーの値段は1ドル札+クオーター1枚だったが、いまでは、1ドル札+クオーター3枚か1ドル札2枚(約310円、ドル円155円で換算)。この5、6年で1.5〜2倍に上がったという。
日本のセブンイレブンでイートインのコーヒーは140円。それを思うと、本当に高い。ニューススタンドでこれだから、スタバやそのほかのチェーン店、街のカフェとなると、もう5ドル(約775円)越えは当たり前で、そのほかのドリンク、スムージーなどになると10ドルはしてしまう。
そういえば、娘のアパートのそばの街角に、「ワンダラーピザ」(1スライス1ドルのピザのチェーン)があったが、いまは1.5ドルに値上がりしたという。
これら、「庶民の味方」の飲食は、もうNYではなくなったと言っていい。
■トランプは中間層・貧困層をさらに貧しくしている
いま、 NY市民は、物価高に喘いでいる。
トランプが掲げた「MAGA」は、バイデン前大統領が招いたインフレを抑制し、ラストベルトの貧しくなった白人層を中心に、一般国民の暮らしを救うはずだった。 しかし、大統領に返り咲いたトランプは、それとはまったく逆の「富裕層をますます富ませ、中間層・貧困層をさらに貧しくする」ことを平然と行っている。
NY市長選の前、10月31のハロウイーン・デイには、フロリダのマール・ア・ラーゴで、取り巻きと支持者を集めた“ド派手”なパーティを行った。また、ホワイトハウスの内装からガーデンまで、金ピカの宮殿に改装しようとしている。
政府機関が閉鎖され、11月いっぱいで「フードスタンプ」の打ち切りが迫るというのに、これではNY市民ではなくともトランプに反旗を翻す。
一般にフードスタンプと呼ばれる「SNAP」(補充的栄養支援プログラム)は、全米で約4200万人に支給されている。支給がなくなれば、これらの人々はたちまち困窮する。
幸い、連邦裁判所は予備資金により50%の支給を命じたが、これは一時的な措置だ。
■「EBT使えます」サインが意味する貧困化
ブルックリンに住む知人によると、「最近、“EBT使えます”(WE ACCEPT EBT)のサインを多く見かける」と言う。EBT? 恥ずかしながら、それを知らなかったので聞くと、 EBTとは「Electric Benefit Transfer」(エレクトリック・ベネフィット・トランスファー)の略で、いわゆるフードスタンプのことだという。
以前、フードスタンプは紙の券だったが、それが電子化され、いまは電子カードになり、それを店に設置されたマシンにかざすだけで補助金による支払いができるようになった。NYには「デリ」(delicatessen)や「ボデガ」(bodega)が数多くあり、その店先にサインが掲示されているという。
また、最近では、マクドナルドなどのバーガーチェーンでも、サインが掲示されているという。
“EBT使えます”が意味するのは、いうまでもなく貧困化である。コロンビア大学と福祉NGO「ロビンフッド」の調査「Poverty Tracker 」(貧困トラッカー)によると、ニューヨークの貧困率は、過去最高の25%に達している。これは、全米平均のほぼ2倍である。
この続きは12月4日(木)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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