近年、出演作がカンヌ、ロンドン、トロント、そしてニューヨークなど、世界各地の映画祭で上映され、国境を越えて観客と出会い続けている広瀬すず。それでも本人は、「海外を目指している」という感覚はまるでないという。

ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催された「JAPAN CUTS」に登場した広瀬すず

ニューヨークで開催された北米最大級の日本映画祭「JAPAN CUTS」のJAPAN CUTS Award受賞のため来米した広瀬。今回は、彼女の名を広く知らしめた是枝裕和監督の「海街diary」(2015)と、石川慶監督の最新作「遠い山なみの光(A Pale View of Hills)」が上映された。

そんな広瀬にニューヨークで、「海街diary」への思いから最新作、そして俳優としての現在地について話を聞いた。

「ニューヨークはすごく面白い街」

今回のニューヨーク滞在はわずか2日間。前日に到着し、翌日には日本へ戻るという慌ただしいスケジュール。昨年、広告撮影で初めてニューヨークを訪れた広瀬にとって、今回は2度目の来訪で、映画祭で訪れるのは今回が初めてだった。

「海街diary」の上映会に続く、質疑応答での様子

「去年来た時がすごく楽しくて。今まであまり海外が楽しい!と思ったことがなかったのですが、ニューヨークは違いました。いろんなものが混在していて、すごく面白い街ですね」

「『海街』は運命を感じる作品」

今回の映画祭で上映された「海街diary」は、広瀬にとって今も特別な存在だ。2014年、当時15歳で撮影に臨んだ本作、広瀬にとって本格的な映画出演として大きな転機となった作品でもある。

是枝裕和監督がメガホンを取り、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆と四姉妹を演じた本作で、広瀬は異母妹・浅野すず役を好演。一躍注目を集め、俳優・広瀬すずの名が広く知られるきっかけとなった。

2015年に公開された「海街diary」

「過去の作品は全く見返さないので、シーンとか言われないと思い出せない(笑)。でも、あの作品でいろんな方に知ってもらったし、すごく運命を感じる役だったので。どこへ行っても『海街』はみんなの中に記憶してもらえている作品でもあるからこそ、こうやってニューヨークでも見ていただけるのは、ちょっと恥ずかしいけど、うれしい」

公開から約10年。当時を振り返る表情には自然と笑みがこぼれた。「撮影をしたのは、おそらくデビューして1年くらい。本当に仕事をしてるのか遊びに行ってるのか分からないくらいの時で(笑)。何も構えず、『楽しい』『映画好きだな』と、終われたんです。なんて幸せな日々だったんだろうって思います」

豪華俳優たちの共演でも話題になった「海街diary」

広瀬にとって、この作品で出会った現場は、今の俳優としての考え方の原点にもなっているという。

「是枝組の現場ってすごい穏やかで。みんな本当にお父さん、お母さんみたいな、友達みたいな感じで接してくれて。その温度感に一番最初に触れたからこそ、映画に向かうマインドが定まった感覚があります」

是枝監督は、俳優に答えを与えるのではなく、それぞれが現場で感じたものを大切にする演出で知られる。「分からないことを監督に聞いて答えをすり合わせる、みたいなことは全くなかったですね。出来上がっていったものが答えというか、みんなで導いたものが答え、という感覚でいます」

海外スタッフと挑んだ最新作

最新作「遠い山なみの光」は、ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロのデビュー小説を、「ある男」の石川慶監督が映画化した作品。1950年代の長崎と80年代のイギリスを舞台に、一人の女性が過去の記憶と向き合っていく物語で、広瀬は戦後の長崎で暮らす若き日の主人公・悦子を演じる。悦子が出会う謎めいた女性・佐知子を二階堂ふみ、80年代のイギリスで暮らす悦子を吉田羊が演じ、二つの時代を行き来しながら物語が展開していく。

広瀬すずが主演を務める「遠い山なみの光(A Pale View of Hills)」(photo: 2025 A Pale View of Hills Film Partners)

複数の登場人物の記憶や視点が重なり合う物語だけに、脚本を読んだ当初は、演じる難しさも感じたという。そんな作品に向き合う中で、石川監督も役の解釈を一方的に示すのではなく、俳優自身の感覚を尊重した。

「この台本を初めて読んだ時、演じると思うと結構難しかったんです。でも『こういう意味?』と、話し合って方向性を決めることは一回もなくて。一回やってみて、『本当はそっちなんだ』『そういう考えもあるんですね』と進んでいく感じでした」

そんな現場で、広瀬にとってもう一つ刺激となったのが、ポーランド出身の撮影監督、ピョートル・ニエミスキとの仕事だった。

「ピョートルさんの感性がすごく鋭くて。『絶対ここに来てほしい』という立ち位置があって、それを完成した画で見ると本当に分かるんです。こんなに画に説得力を持たせて、役の感情まで映してくれる。そのセッションもすごく面白かったですね。また、監督とピョートルさんが話しているのを聞いていても、『そういう見方なんだ』と思う瞬間もあって、新鮮でした。でも現場の温度感は『海街』と遠くなくて、すごく心地よかったです」

「海外には興味がないですね」

「遠い山なみの光」はカンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映され、その後イギリス、トロント、そしてニューヨークでも上映された。

世界各地で作品が紹介されるようになった今、海外を意識して作品を選ぶことはあるのだろうか。そう聞くと、広瀬は迷いなく「全くないです。どの作品もずっと同じマインドでいますね」と答えた。そして、柔らかな表情でさらりと続ける。「海外には興味がないですね」

「遠い山なみの光」でJAPAN CUTS Awardを受賞した広瀬すず

もちろん、それは海外で活動したくないという意味ではない。海外で評価されることを目標に作品を選ぶのではなく、目の前の作品と誠実に向き合う。その結果として作品が世界へ届き、自分もそこへ連れて行ってもらっている、という感覚なのだ。

また、海外で観客と直接向き合う時間も、俳優として新たな発見につながっているといい、新しい地でお芝居をしたり、作品を見てもらえたりすることは、「毎回すごく経験になります」と、広瀬。以前出演した野田秀樹率いるNODA・MAP「Q」のロンドン公演では、観客の反応が特に印象に残っているそうだ。

「字幕があると字幕に目が行くことが多いけど、いったん字幕を捨てて人物を見て理解しようとしてくださる姿勢が舞台上から分かるんです。こんなに遠い日本の作品を受け取ろうとしてくれる。その姿はやっぱりすごいな、うれしいなって思います」

この日の夜には、JAPAN CUTSで「遠い山なみの光」の上映と舞台挨拶を控えていた。「ニューヨークはどういう反応をするんだろうって。カンヌもロンドンも結構反応が分かりやすかったので、楽しみです」

「役を通して、経験したい」

今後5年、10年先の目標を聞くと、広瀬は少し笑って首を振った。「夢みたいなのもなくって。わりとその瞬間、その瞬間を生きるタイプなので、あまり先のことは考えていないです」

一方で、年齢を重ねるにつれ、新しい出会いが増えていることを実感しているという。

芝居に真摯に向き合い続ける。その姿勢が、広瀬をさまざまな場所へと導いてきた

「10代後半から20代前半は似た役も多かったけど、年齢を重ねるほど全然違うものに出会える。新しい監督、新しいスタッフさん、全然違う役。そういう出会いがこれからもっと増えていくんだろうなって思っています。いろんなことを役を通して経験したいですね」

海外進出を目標に掲げて作品を選んできたわけではない。それでも、「海街diary」は公開から10年を経てニューヨークで上映され、「遠い山なみの光」も世界各地の映画祭で観客を魅了している。

「海外には興味がないですね」。そう笑って語る広瀬の姿から伝わってきたのは、海外を意識するのではなく、目の前の役と作品に真摯に向き合い続ける姿勢だった。その積み重ねが作品を海の向こうへと運び、新たな観客や経験との出会いにつながっている。

作品が次の場所へ連れて行き、その土地で得た経験が、また次の作品へと生かされていく。そんな自然体の歩みを、広瀬はこれからも続けていくのだろう。

取材・文/ナガタミユ
写真/JAPAN CUTS提供