ニューヨークで間もなく上演が始まる、安野モヨコの「鼻下長紳士回顧録」を原作とした新作オフ・ブロードウェイ・ミュージカル「MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN」。9月21日にメディア向けのイベントが行われ、ベールに包まれていた劇場の全貌やキャストのパフォーマンスもお披露目され、幕が上がるまでのカウントダウンが始まった。

本作は、日本を代表する漫画家、安野モヨコが描く「鼻下長紳士回顧録」を原作にした、完全なる英語オリジナルのミュージカル。近年では漫画・アニメブームに乗って、「デスノート」や「となりのトトロ」「千と千尋」など、さまざまな作品が海外でミュージカル上演されているが、今回の試みは“すべて英語オリジナル”での製作。
演出や振り付け、脚本、音楽のすべてをニューヨークのチームが一から作り上げた史上初の挑戦となっており、日本の漫画作品の世界進出として注目されている作品だ。プレビュー公演が9月25日、正式開幕が10月15日と迫る中、この日はメディア向けのお披露目会が行われた。
偉大な音楽家との突然の別れ
まず本作を観る上で心に留めておきたいのが、音楽。ミュージカルの中核とも言える作詞・作曲を今回担当したのは、ミュージカル界で「鬼才」と呼ばれたダンカン・シーク(Duncan Sheik)。ダンカンは今回の作品のリハーサル中、幕が上がる直前の9月17日にこの世を去ってしまい、本公演が彼の残した最高で最後の新作ミュージカルとなる。

お披露目イベントでは、そんなダンカンへの追悼として、キャストが集まり、主演のソフィア・アン・カルーソ(Sophia Anne Caruso)を中心に「Immured」を披露。6年がかりのプロジェクトで、初期から主演としてダンカンと作品作りをともにしてきたソフィアの、熱のこもったパフォーマンスが披露された。

プロデューサーの一人、トニー・マリオン(Tony Marion)は「私たちは、美しい友人であり、共に作品を作ってきた仲間を失いました。ダンカンと仕事をするという特別な機会に恵まれた人、彼の作品を見て、心を動かされた人なら誰もが、彼がどれほど並ぶ者のない芸術家だったかを知っていると思います。この建物で彼の作品を舞台として形にできることは、私たちにとってこの上ない光栄です」と語った。

さらに、「彼は、当時何もないブラックボックス状態だったこの劇場で、今ステージがある場所まで歩いてきて、ただこう言ったんです。『ここがしっくりくる。妙に奇妙な感じがする』。それは、私たちの作品にぴったりでした。私たちはこの数カ月をかけて、新たに300席の劇場を作り上げました。今週金曜日にプレビューが始まり、観客の皆さんをお迎えします。ここで私たちが取り組んでいるすべてのこと、そしてこの作品を、友人であり共に作品を作ってきたダンカン・シークに捧げたいと思います」と追悼の言葉を述べた。

至極の「劇場体験」
今回「MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN」が上演される劇場は、2025年まで14年間にわたり人気を集めた没入型演劇「スリープ・ノー・モア(Sleep No More)」が上演されていた建物にある。もちろん当時のセットなどはすべて取り壊され、トニーの言葉にもあった「ブラックボックス」状態からスタートした。

20世紀初頭のパリの妖艶な娼館を描いた「鼻下長紳士回顧録」の世界を表現すべく、劇場全体には深いレッドのベルベットを基調に、女性の毒々しい艶やかさが再現されている。また、大きな劇場ビルを生かした空間づくりも見どころで、重厚な黒いドアを開け、客席へと続く道を抜けると、円形舞台がお目見え。

会場には大きなシャンデリアや、娼館をイメージしたミステリアスなベッドなども飾られており、本作の鑑賞はもちろん、「劇場体験」としてもミュージアム感覚で楽しめることだろう。
気鋭のアーティストやファッショニスタが集まり、新たなものが生まれるニューヨークのチェルシーで、今、日本の作品もニューヨークとの化学反応によって誕生しようとしている。
「The Show must go on」
ブロードウェイの舞台には古くから「The show must go on」(ショーは幕が上がったら、何があっても最後まで続けなくてはならない)という言葉があり、ハプニングはつきもの。
今回はダンカンという偉大な音楽家を失ったが、彼の音楽はこれからずっとこの劇場「The Night Egg at the Culture Club」で、キャストたちの息吹と共に生き続ける。
ミュージカル好き、安野モヨコファン、漫画好きはもちろん、彼の音楽に興味のある人は、ぜひ「浸り」に来るのもいいかもしれない。どこを切り取っても面白い、そんなオフ・ブロードウェイ・ミュージカルがこの秋、開幕する。
取材・文・写真/ナガタミユ
MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN
期間
10月15日(木)〜2027年1月3日(日)
※プレビューは9月25日(金)から
場所
The Night Egg at the Culture Club
(530 W. 27th St.)
チケット
49ドル〜
公式サイト
https://www.memoirsmusical.com/















