コーキーの写真家として一番大きな功績は、大陸横断鉄道完成を祝う記念写真を再現(reenactment)した2014年の作品である。東西両方から建設を始めた2つの線路が、1869年にユタ州プロモントリー・サミットで公式に接続された。中国人の労働者は15,000~20,000人。多い時は全労務者の90%が中国人労働者だった。シエラネヴァダ山脈の一番危険な工事で大勢の中国人が命を失った。コーキーは、中学生の時教科書で見た写真に、虫眼鏡で見ても、中国人が一人も見当たらなかったことが長年気にかかっていた。そして2014年、中国系アメリカ人の鉄道労働者の子孫に集まってもらい、当時の写真をもとに完成を祝う記念写真を再現したのだった。

私はコーキを数回見かけたことがある。日系人コミュニティでは、ルーズベルト大統領が日系アメリカ人の強制収容につながった大統領令9066号を署名・発令した2月19日をThe Day of Remembrance(追憶の日) とし、毎年アメリカ各地で行事が行われている。私は収容所に入れられた親戚がいることもあって、ニューヨークにいる時には参加している。コーキーは追憶の日の写真を撮りに来ていた。その時、情熱的に撮影している写真家が誰なのかは知らなかったが、ただ者でないことはわかった。彼がどういう人物であるかを知ったのは、中国人の友人に誘われCACAGNY (Chinese American Citizens Alliance of Greater NY)主催のイべントに出席した時のことで、大陸横断鉄道完成の再現写真が寄付金集めのためのオークションに出されていた。コーキーは良心的兵役拒否者だったが、父親が退役軍人だった関係から中国系コミュニティのアメリカン・リージョン(American Legion:米国在郷軍人会)の理事を務めたこともあった(同会の会員資格は、在郷軍人だけでなく、その遺族、配偶者にも与えられる)。この記事の2枚の写真はCACAGNYの会員に提供して頂いた。コーキー壁画は中華街(Doyers Street and the Bowery near the Manhattan Bridge)に最近描かれたもの。チャイナタウン・ミュラル・プロジェクト(Chinatown Mural Project)が制作した。
『Dear Corky』 を制作した監督、カーティス・チン(コーキーと同姓だが、血縁ではない)は、デトロイト出身のプロデューサー、 ドキュメンタリー作家、著作家である。1982年、彼が14歳の時、叔父さんが友人の結婚式でベストマンになる予定だった。ところが、その友人が殺されたため、一転して葬式に出席することになった。その友人がビンセント・チン(Vincent Chin)だった。当時日本車の流入でアメリカ自動車産業が売上不振となり、反日感情が高まるなか、ビンセント・チンは3人のアメリカ人に日本人と間違われて撲殺された。この人種差別による殺人事件は、アジア系アメリカ人の権利を主張する運動の契機となった。カーティス・チンは、コーキーの生涯の友で、チンが作ったドキュメンタリーにはコーキーが撮った10万枚の写真のうち100枚が使用されている。

この他コーキーを題材にした作品には、ドキュメンタリー映画『Photographic Justice: The Corky Lee Story』(2022年、ジェニファー・タカキ監督)がある。また 、ランダム・ハウス社から写真集『The Asian America of Corky Lee』が出版される予定になっている。アメリカではスーパーヒーローが正義の味方の英雄としてとして登場するハリウッド映画が後を絶たない。その中で2021年にマーベル・スタジオが制作したアベンジャーズ・シリーズ映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(Shang-Chi and the Legend of Ten Rings)に、初めて、LYCRA(ライクラ)スパッツ姿のアジア系スーパーヒーローが登場した。しかし、それ以前からずっと実社会で悪に立ち向かい、戦っていたのはコーキーだと私は思う。アジア系市民への不公正やメディアが無視して取り上げない問題を、コーキーは 「我こそは“ABC from NYC(ニューヨーク市のアメリカ生まれの中国人)”」と名乗りを上げ、カメラを武器として撮影し続けたのである。
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文/ 中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセアサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴37年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
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