2023年6月6日 DAILY CONTENTS NEWS COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

連載1015 「五公五民」は? 本当は「六公四民」! 「国民負担率47.5%」というマヤカシ (完)

連載1015 「五公五民」は? 本当は「六公四民」! 「国民負担率47.5%」というマヤカシ (完)

(この記事の初出は2023年5月9日)

 

増税に加え年金改悪で国民生活を破壊

 岸田政権になってから、「防衛費倍増」「子ども予算倍増」など、「倍増」のオンパレードになった。どれも、緊縮を行わないなら、国債発行か増税するほか手がない。
 すでに、防衛費倍増問題では、復興特別所得税の延長や、所得税、たばこ税、法人税などで1兆円を増税する方針が決められた。これは、2024年度から段階的に実施される。
 それとともに、“隠れ増税”も進んでいる。健康保険料と介護保険料の引き上げ、年金加入期間の延長と支給年齢の引き上げなどだ。
 国民健康保険料は2022年4月に上限額が3万円引き上げられたばかりだが、2023年4月からさらに2万円引き上げられた。年金のほうは、2024年に控えた5年に1度の年金財政検証に合わせて、数々の増額メニューが検討されている。
 まずは、国民年金の加入期間を40年から45年に延ばす。年齢で言うと現在の60歳から65歳に引き上げる。保険料を5年間長く払わせるためだ。
 そして、厚生年金の被保険者期間を「70歳まで」から「75歳まで」に延ばす。さらに、厚生年金のマクロ経済スライド期間を2033年度まで延長する。
 こうした“年金改悪”のなかで、年金受給の高齢者にもっとも過酷なのは、マクロ経済スライドの延長だ。もともと年金制度は、物価や賃金が上昇すると年金もいっしょに上昇することになっていた。だから、インフレが起きても年金が実質的に減ることはなかった。
 しかし、マクロ経済スライドによって、物価が上がっても年金の増額は抑制され、実質的には目減りするようになった。マクロ経済スライドは、本来なら2025年度に終了する予定だったのを10年弱も延長するのだ。
 これが実現すると、月額約2万円の減額、20年間で400万円超の大幅カットになる。総務省の家計調査では、年金暮らしの夫婦2人世帯の支出は月額約27万円となっているので、高齢者世帯の暮らしはたちまち行き詰まる。「老後2000万円必要」と言われてきたが、2000万円でも足りなくなる。

税金の支払い手がいなくなる未来

 消 2022年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)が、前年比5.1%減の79万9728人で、1899年の統計開始後初めて80万人を下回ったことが、各方面に衝撃を与えた。
 この少子化のペースは、政府機関の推計より10年ほど早い。この傾向が続けば、年金をはじめとする社会保障制度や国家財政は予想以上に逼迫する。
 出生数の下落率は、2015年までの10年間は毎年平均1%ほどだったが、2016年以降は3%超に加速化した。出生数が100万人を割ったのは2016年だが、それからわずか6年で2割減の80万人を下回ってしまった。
こうなると、生産年齢人口も加速度的に減少する。それは、税金を払う納税者が加速度的に減少することを意味する。次の[図表23]は、1950年を起点とした日本の人口の推移で、2022年より先は推計だが、この推計はいまや成り立たなくなった。推計より速いスピードで少子化が進んでいるからだ。
 このグラフを眺めて、日本の将来を想像すると、絶望的になる。

 [図表23]日本の人口の推移(1950~2060)
 https://foimg.com/00065/lPiRtV

意のある若者は重税国家から出て行く

 中国の諺に、「苛政(かせい)は虎(とら)よりも猛(もう)なり」というのがある。これは、重税を課す過酷な政治は人を食う虎よりも恐ろしいということだ。
 泰山の近くを通りかかった孔子は、墓に向かって泣いている婦人を見つけ、弟子の子貢を使わせて、なぜ泣いているのかと訪ねさせた。その婦人はこう言った。
「私の舅は昔、虎に殺されました。夫も虎に殺されました。息子も虎に殺されました」
 それで、孔子が婦人に「どうしてこの地を離れないのか」と訊くと、婦人はこう答えた。「この地には重税がないのです」
 この諺が意味するところを私見で解釈すれば、重税国家から人は逃げ出すということだろう。
 すでに、「重税ニッポン」に嫌気がさして、多くの富裕層や有能なビジネスマン、起業家たちが国を出ている。有意な若者たちも国を出ている。とくに本気でスタートアップを目指す若者は、海外を目指す。昔の若者は英語が苦手だったが、いまの若者はそうではない。また、ITテクノロジーを使えば、語学の壁は乗り越えられる。
 シンガポールなどのタックスヘイブンは、日本のような官僚統制国家では「悪」とされている。しかし、本当は、重税国家の理不尽な徴税から逃れるための「自由な地」とも言える。
 このまま日本が重税国家路線を突き進めば、タックスヘイブンばかりか、能力を認められる国、高い収入が得られる国に、多くの国民が国を出ていくだろう。
 とくに、将来に希望が持てなくなった若者たちが、本気でこの国を出たら、日本はどうなるのだろうか。
(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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