ニューヨークの不妊治療クリニックGFGの
アメリカ妊活便り
第11回 着床前染色体検査がつくる未来
35歳を過ぎると妊娠しにくい―。都市伝説的にそう言われているが、これにはれっきとした理由がある。加齢による卵子の質の低下は否めず、それによって起こる「染色体異常」が不妊や流産を招いているのである。
染色体異常とは
染色体とは遺伝子の集合体のことで、ヒトは通常、父親と母親それぞれから受け継いだ23対(46本)の染色体を持つ。男女共通しての22対の常染色体、そして男女の性別を決定する1対の性染色体。それらの数が1本でも多かったり少なかったりすると不都合が生じ、胚はうまく成長しない。その多くは着床できず、仮に着床できたとしても妊娠初期での流産や死産となってしまったり、ダウン症やターナー症など先天性疾患を持った子供を授かることもある。
加齢と共に増える染色体異常
染色体異常の原因はいまだ解明されていない。だが、高齢出産との関係性は明らかで、35歳以上の女性の卵子からの受精胚の6割以上に染色体異常がみられる。せっかく体外受精(IVF)で多くの卵子が採取でき胚ができても、染色体異常があればその苦労は水の泡となる。では、それらを取捨選択する方法はないのだろうか。染色体異常のない正常胚だけを識別し妊娠成功へと導く方法―、それが「着床前染色体数異常数性検査(PGTーA)」である。
IVFの成功率、着床率など上昇
PGT-Aとは胚の染色体数を調べる検査で、染色体数の異常を持つ胚を識別し、正常胚だけを子宮に移植することで流産を減らし、IVFの成功率、着床率、出産率を向上。妊娠までの時間の短縮や、染色体異常による疾患のない健康な子供の出産への期待も高まる。
少し悩ましいのが「モザイク胚」。モザイク胚とは、PGT-Aの結果、正常な染色体の細胞と染色体異常の細胞が混じり合っているもの。モザイク胚は正常胚に比べて着床率や出生率は落ちるものの、モザイクの割合が低いものは成長段階で異常が改善されることもあり、モザイク胚を移植して健康な子供を出産した例も少なくない。遺伝子専門のカウンセラーやドクターの見解を元に判断するとよいだろう。
日本でも問われ始めた必要性
米国ではPGT−Aによる胚の選別がIVFの成功率や出産率の向上、そして健康な子供を効率的に授かるためのオプションとして、希望する全ての人が受けることができる。日本でもここ数年その必要性を問われ始め、着床前の染色体検査を否定してきた日本産婦人科学会も昨年、複数回の胚移植不成功や反復流産、また染色体構造異常例をもつ女性のみを対象とした限定的なPGT-Aを承認するという見解を発表した。
高まるPGT-Aの必要性。米国で早く確実に妊娠したい、そして健康な子供の出産を望む35歳以上の女性にはぜひとも受けていただきたい。

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