津山恵子のニューヨーク・リポートVol.31
「超安い」日本でいいのか
インバウンド天国の裏に暗い影
東京の桜が満開のころ、半年ぶりに一時帰国した。実家がある鎌倉のほか、銀座、築地、浅草、福岡、博多、どこも、海外からの旅行客がわんさかいて賑わっている。
4月15日午前10時半、晴天の築地場外市場。市場入口の看板下をくぐり抜けると、すぐある牛丼屋さんに20メートルほどのU字型列。小路は、まっすぐ歩けないほどの混みよう。卵焼き、苺キャンディー、乾物、生ウニ屋、緑茶屋、どこも外国人だらけだ。
私と友人は列に並ぶ時間がなく、お目当ての寿司屋を諦め、築地ではなくても全国で行ける「すしざんまい」に飛び込んでしまった。
帰国中のわずか2週間で、ドル円相場は151円後半から154円後半と急激なドル高円安に。ユーロ円は164円台と、円は世界の主要通貨で超安い。つまり、2000円の寿司ランチは、わずか13ドル、12ユーロ。一泊20000円のビジネスホテルは、130ドル、120ユーロと、旅行客にとって母国内での食事や宿泊の数分の1という感覚だ。
銀座ではブランド店に列、浅草では「すき焼き今半」に列。これは、かつて見たことがある風景だ。円高のころ、日本人が海外のブランド店や有名レストランにわんさかいた。東南アジアで爆買いしていた。今や逆転して、日本は「何でも安い」観光地になったわけだ。
日本は、観光地としてかつてのアジア並みに「超安い」だけではない。G7の一人当たり名目GDP(国内総生産)で、日本は7カ国中最下位の7位で世界では31位の33863ドル。G7トップのアメリカは世界では7位で76343ドル。「ものづくり」の国、製造大国とされた日本は、GDPですらアメリカの半分だ。
日本が劣っているのは、経済力だけではない。築地には、欧米だけではなく、中国・韓国・東南アジア、アラブ諸国の観光客もいた。実は、日本の女性の地位は、築地に押し寄せていたほとんどの国の女性よりも低い。
世界経済フォーラム(WEF)が2023年発表した「ジェンダーギャップ(男女格差)リポート」で、日本は146カ国中125位。22年の116位から落とした。東南アジアの中でさえ、シンガポール(49位)、ベトナム(72位)、タイ(74位)、インドネシア(87位)、韓国(105位)、中国(107位)のはるか下をいく最下位だ。
築地をそぞろ歩く観光客は、目が好奇心で輝き、笑みを浮かべ、とても楽しそうだった。私も彼らを見て嬉しかった。世界からの人々であふれるニューヨークやパリにいる気分になった。観光客には嬉しい状況が、日本が抱える大きな問題であることに気づくまでは。
(写真と文 津山恵子)



津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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