高市早苗首相の誕生で、日本中が一変して楽観ムードに包まれている。「行動が早い」「トランプ大統領とうまくやれる」「これで日本がまた強くなる」などという賞賛のコメントが、ネットに溢れている。しかし、すべては期待に過ぎず、彼女が掲げる政策は期待とは逆行する。
いまの日本は、長びく経済衰退とともに、ますます内向きになっている。とくに若年層の右傾化、内向き化がひどい。サナエノミクスは、それをさらに加速させるだろう。
かつて「国際化、国際化」と叫ばれていた時代があった。1980年代のことだが、とうとう日本は国際化せず、世界から大きく遅れてしまった。今後が思いやられる。

■財源が足りなければ国債を増発して対応する
たしかに女性首相の誕生は歓迎すべきことで、日本が大きく変わる可能性を秘めている。しかし、その政策が「責任ある積極財政」でアベノミクスの継承であるサナエノミクスであり、保守(右)なのにアメリカに媚びる「親米ポチ」路線では、国民は貧しくなる一方ではないか。
よって、私もいままでの政権より大きな期待を寄せてはいるが、冷静に考えれば、この期待は裏切られると思う。日本経済は復活などしないだろう。
それにしても驚いたのは、財務大臣になった片山さつき氏が、10月24日の記者会見で、今年度補正予算の財源を聞かれたとき、財源が足りなければ国債を増発して対応すると述べたことだ。
■経済政策の要になる人間なのに「無責任」
国債を発行し過ぎたため、円の価値が薄れ、大幅な円安になった。円安は物価高を招き、日本経済はインフレを通り越してスタグフレーションに陥った。
それなのに、さらに国債を発行すれば円安は止まらなくなる。つまり、物価対策といって、ガソリン減税、年収の壁による所得減税などをしても効果などなくなる。「責任ある積極財政」と言いながら、無責任ではなかろうか。
片山さつき氏は、女性初の財務大臣であり、財務省の出身である。「小泉チルドレン」として政界入りしたが、今回の高市内閣の経済政策の要になる人間である。それが、こんな発言をしていいのだろうか?
■かつて勉強会に片山さつき主計官を招いた
2000年代のはじめ、アルゼンチンが国家破産し、その財政状況に日本財政が酷似しているのに危機感を抱いて、私は経済評論家で財政均衡主義者の森木亮氏と勉強会を開き、当時、財務省の主計官だった片山さつき氏を講師に招いたことがある。
女性初の主計官がどんな人物なのかに興味があったこともあるが、それ以上に財務省が財政をどう考えているのかを知りたかった。
彼女は、はっきりとこう言った。
「いまの日本の財政は危機的です。これ以上の国債発行は控えなければなりません。そうしないと、大変なことになります」
あれから20数年、政治家になって「国民の声」というポピュリズムに染まると、考えを変えざるを得なくなるのだろうか。
この続きは11月20日(木)に掲載します。
本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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