9月は、アメリカで新しい学年が始まる季節です。新しい先生、新しいクラス、新しい生活のリズム。そんな節目だからこそ、少し先のことを考える良い機会でもあります。「受験はまだ先だから大丈夫」ではなく、「今だからできることは何だろう」と考えてみること。今回は、受験を経験した保護者のみなさんの声も交えながら、将来の選択肢を広げるための「小さな準備」について考えてみたいと思います。
新学年が始まると、子どもたちは新しい環境の中で毎日の生活を作っていきます。一方、保護者からは、「受験については、まだ先なので考えていません」という声を聞くことがあります。もちろん低学年のうちから受験勉強を始める必要はありません。ただ、「まだ受験学年ではない」ということと、「まだ何もしなくてよい」ということは、少し違うように思います。
受験を終えた保護者から、こんな言葉を聞くことがあります。
「低学年の頃は、受験なんてまだまだ先だと思っていました。でも振り返ると、漢字や計算、本を読むことなど、毎日少しずつできることをもっと続けておけば良かったと思います」
帰国生の中学・高校受験を考える場合、直前になってから急には身に付けにくい力があります。日本語の読解力や語彙力、自分の考えを文章にする力に加え、漢字を正しく読み書きする力や、正確に計算する力もその一つです。特に現地校では、漢字を繰り返し書いたり、計算問題を反復したりする機会が日本の学校ほど多くありません。
だからといって、毎日大量の課題に取り組む必要はありません。漢字を少し書く、計算を数問解く、日本語の本を10分読む。その程度でも毎日続ければ大きな力になります。受験学年になってから一度に取り戻そうとすると負担になりますが、時間のある今なら、生活の一部として無理なく身に付けることができます。
特に海外生活が長いご家庭からよく聞くのが、日本語についての悩みです。
「家では普通に日本語で話していたので、日本語は大丈夫だと思っていました。でも受験勉強を始めてみると、漢字が書けない、文章を読むのに時間がかかる、自分の考えをうまく書けない。会話ができることとは別なんだと、その時初めて気づきました」
日常会話ができることと、学習に必要な日本語を使えることは同じではありません。漢字を書く、本を読む、知らない言葉の意味を調べる、出来事を順序立てて説明する。こうした小さな経験が、数年後の大きな土台になります。算数も同じです。考える力はもちろん大切ですが、その土台となる計算を正確に、ある程度の速さでできることは、その後の学習を大きく助けます。
一方で、海外にいる今だからこそ伸ばせる力もあります。英語力はもちろん、さまざまな文化や価値観に触れる経験と、そこから生み出される価値観や思考力もその一つです。帰国生入試では、海外で何を経験したかだけではなく、その経験から何を感じ、何を考えたかを問われることがあります。
ある保護者は、受験を終えた後にこう話していました。
「もっと勉強させておけば良かった、というより、海外にいる間にもっといろいろなことを経験させて、そのことを親子で話しておけば良かったと思います」
これはとても大切な視点だと思います。旅行に行った、スポーツをした、現地のイベントに参加した。それだけでも貴重な経験ですが、「何が印象に残った?」「日本とどこが違うと思った?」と会話を重ねることで、経験が子どもの中に残ります。そして、それが自分の考えを言葉にする力へとつながっていきます。
つまり、非受験学年の今やってほしいのは、受験勉強の先取りではありません。漢字・計算・読書といった基礎を少しずつ積み重ねること。そして、海外にいるからこそできる経験を広げ、その経験について親子で言葉を交わすことです。
家庭では、「まだ大丈夫かな」と心配するより、「今だからできることは何だろう」と考えてみてください。全部を一度に始める必要はありません。「毎日10分だけ漢字と計算をする」「日本語の本を月に一冊読む」「週末に、その週に印象に残ったことを話す」。一つでも十分です。
受験が近づいてから焦って準備を始めるのではなく、時間のある今だからこそ、ゆっくり育てられる力があります。新しい学年の始まりに、少しだけ先の自分を想像してみること。それが、将来の選択肢を広げる最初の一歩になるのではないでしょうか。
「まだ大丈夫」と思える時間こそ、未来のためにできることが一番多い時間です。
早稲田アカデミー ニューヨーク校
https://www.waseda-ac.co.jp/abroad/school/newyork.html
早稲田アカデミーNY校 川村宏一(かわむら こういち)

早稲田アカデミーUSA取締役・NY校現地代表。2002年に早稲田アカデミーに入社後、校舎で7年間にわたり講師を務め、その後、高校受験部門にて英語科目の責任者を担当。現在の早稲アカ英語科システムの礎を築いた後、国際部に異動し、英語専門校舎の統括責任者に就任。2023年3月から現職。早稲田アカデミーの教育理念である「本気でやる子を育てる」を、海外においても実践している。問い合わせは(メール:newyork@waseda-academy.com)まで。













