安野モヨコの漫画「鼻下長紳士回顧録」を原作とした、オフ・ブロードウェイ・ミュージカル「MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN」がついに開幕を迎える。9月25日からプレビュー公演が始まり、10月15日に正式開幕を控える。

今回は、そんな本作をより楽しむため、ストーリーと、物語を運んでいく全14曲をわかりやすくガイド。観劇前の“予習”にも、見終わった後の“復習”にも、ご活用あれ。
360度の円形舞台で“没入体験”
舞台となるのは、20世紀初頭のパリ。つつましい娼館「ナイト・エッグ」で働く若き女性コレットは、そこを訪れる風変わりな客たちの幻想や告白、秘めた悲しみを書き留めていく。
言葉を紡ぐ中で、“見られる対象”だったコレットは、次第に人間を“観察する者”へと変わり、自らの中に眠っていた作家としての力に目覚めていく。一方で、幼なじみのレオンに対する破壊的なまでの執着からは、どうしても逃れられない。

劇場「The Night Egg at the Culture Club」は、客席が舞台を360度囲む円形型。キャストと観客との距離が近く、“舞台を見ている”というより、物語の中に入り込み、“傍観者の一人”としてその世界をのぞいているような感覚を味わえる。
そんな“没入感”をさらに強めてくれるのが、物語を運ぶ音楽だ。本作の開幕を前にこの世を去ったブロードウェイの作曲家、ダンカン・シーク(Duncan Sheik)が残した全14曲が、それぞれの登場人物の欲望や恋、嫉妬、絶望、死、そして再生を描いていく。

楽曲とともにストーリーをたどれば、コレットがどのように変化していくのかも、より鮮明に見えてくるはず。ここからは全14曲とともに、「MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN」の物語を追っていく。
※ 以下、作品の結末を含むネタバレがあります。
※ 本作品はプレビュー公演中のため、本公演まで内容が変更することをご了承ください。
①「YOUR PERVERSION IS OUR PLEASURE」
歌い手:コレット、カルメン、アイヴィー、ミニョ、マダム、客たち、アンサンブル
幕開けとともに、観客を一気に“ナイト・エッグ”の世界へ誘うオープニングナンバー。“欲望”がテーマの本作らしく、人々の欲が次第に熱を帯びていくようなドラマティックな楽曲と演出にも注目したい。
最初に登場する客は、ナイト・エッグを初めて訪れたヘンリー。緊張した面持ちで、自分には「鳥になりたい」という願望があることをコレットに告白するが、そんな自分の“変態願望”を恥じている。
そんなヘンリーを安心させるように、マダムを中心とした女性たちは、ここではタブーだと思っていた願望さえかなえることができるのだと誘う。真っ赤なベッドの上で繰り広げられる、美しくも魅惑的なダンスも見どころだ。
②「SAKAE’S SONG」
歌い手:サカエ
主人公コレットの“作家”としての才能を目覚めさせるきっかけとなる一曲。行動をかき立てられるようなメロディーラインに加え、三味線のような音色を取り入れたテクノサウンドにも注目したい。
歌うのは、日本人の売れない作家サカエ。彼はコレットに一冊のノートを渡し、「何が君を笑わせるのか」「何が君を泣かせるのか」「何を求めているのか」という三つの質問を投げかけ、その答えを書き留めるよう促す。
しかし、サカエの目的は純粋にコレットの才能を伸ばすことではない。娼婦である彼女が何を考えているのかを書かせ、その文章を自らのために利用しようとしていた。
それでも、この一冊のノートがコレットの人生を大きく変えていくことになる。物語の最後にもつながる“三つの問い”が登場する、重要な一曲だ。
③「LEON(It Makes No Difference)」
歌い手:コレット
コレットが、幼なじみであり、永遠の片思いの相手でもあるレオンへの思いを初めて歌う一曲。恋する乙女のかなわぬ恋心を、切なくも美しいメロディーに乗せて歌い上げる。
コレットが夢見るのは、レオンとともに送るイタリアでの生活。そのかなわぬ夢に思いを馳せるように、歌詞にもイタリアに関連した言葉が多く使われている。
④「OBVIOUS」
歌い手:マダム、ミニョ、アイヴィー
「他の男を探しなさい」。女子の恋愛相談では、よく聞くフレーズではないだろうか。そんな“あるある”なやりとりが、ドラマティックかつ力強い女性たちの歌声で繰り広げられる一曲だ。
レオンをどうしようもなく愛してしまっているコレットに対し、同僚であり友人でもあるアイヴィーたちは、彼女が利用されていることなど“明らか=OBVIOUS”だと諭す。
マダムのミステリアスな歌声から始まり、テンポの良いビートへと展開。“目を覚ませ”と背中をたたかれているような、女性たちのパワーを感じるナンバーとなっている。
⑤「LOOK WHO’S COMING(AIN’T THAT SOMETHING)」
歌い手:レオン
本作随一の“修羅場”ともいえる、ドロドロとした恋愛と人間関係が交錯する一曲。コレットとレオンの関係に大きな意味を持つ、ミステリアスな女性ナナの艶やかな歌声が、レオン、そしてサカエまでも翻弄していく。
金のトラブルから逃げるレオンが向かった先は、フランスでも指折りの高級娼婦、ナナのもと。しかしナナは、裕福な日本人客であるサカエと過ごしており、レオンを部屋に入れようとしない。
コレットからくすねた金をナナに貢ぐレオン。ようやくナナと過ごすことを許されたものの、今度はサカエが戻ってきて、二人が交わる姿を見たいと要求する。ナナは、その対価をサカエに支払わせる。
さらにレオンを追うごろつきまで現れ、ナナのメイドを人質に。レオン、ナナ、サカエ、それぞれの欲望と人間関係が複雑に絡み合っていく。
貧しく、飢えて過ごした幼少期とは対照的に、今やナナと過ごすことで、ほかの男から注目される“見られる側”となったレオン。その自信に満ちた姿も、この曲のポイントだ。
レオンはナナに「一緒に遠くへ逃げよう」と持ちかける。しかし彼女が突きつけるのは、「あなたは500フランさえ持っていないでしょう」という現実だった。
⑥「IMMURED」
歌い手:コレット
本作の要となる、コレットのレオンへの深い愛と絶望を描いた一曲。恋する女性の心の奥底にある叫びを、ブロードウェイミュージカル「BEETLEJUICE」で主演も務め、歌唱力にも定評のあるソフィア・アン・カルーソが歌い上げる。
金を取りに来たレオンから、知らない女性の香水の香りがすることに気づくコレット。彼が自分だけでなく、ほかの女性も愛していることを知り、打ちひしがれる。
絶望しながらも、どこかシニカルに現実を受け止めようとするコレットの性格も垣間見える。シンプルで美しいフォークロックのサウンドで聴かせる、圧巻のビッグナンバーだ。
⑦「HOOPS」
歌い手:レオン
レオンの荒波のような心情に合わせ、ダンサーたちが繰り出す超絶技巧の踊りも見どころとなる。
レオンはクラブをさまよいながら、さまざまな女性たちと混じり合っていく。キャッチーなメロディーと韻を踏んだリズミカルな歌詞が、レオンの頭の中を描くような幻想的で妖艶な世界を作り出す。
そこへ、旅行かばんを持ったナナが現れる。しかし、その後ろにはレオンを追うごろつきたちの姿があった。
物語が大きく動く、至極のダンスナンバーだ。
⑧「PROBING」
歌い手:コレット
レオンの死をまだ知らないコレットが、さまざまな客を相手にしながら、長く姿を見せないレオンへの変わらぬ思いを軽快に歌う。
そんなコレットのもとを、サカエが再び訪れる。父親の金が尽き、今回が最後の訪問になるというサカエは、コレットがノートに書きためた文章を読む。
しかし、その文章に嫉妬したサカエは、「誰が一文無しの娼婦の嘆きに興味なんかあるか」と言い放ち、ノートを置いて去っていく。
自分のために利用しようとしていたコレットの文章。しかし、その才能はいつの間にかサカエ自身を嫉妬させるほどのものになっていた。
⑨「INSIDE LOOKING OUT」
歌い手:エミール、コレット、アイヴィー、ミニョ、カルメン
とある客の「サーカス」という変わった性癖とともに繰り広げられる、“女たちのサーカス”。目にも耳にも華やかな楽曲だが、その裏では人間ドラマが大きく動いていく。
サーカスにまつわる願望を持つ客、エミールを相手にしている最中、カルメンが取り乱し、エミールが隠れている箱を破壊しようとする。
それを見たマダムは、自らが経営するナイト・エッグの秩序を乱す者は地下で罰を受けなければならないと、カルメンを連れていく。
カルメンを助けようとするコレットだが、アイヴィーとミニョから、自分自身を犠牲にせずに彼女を救い出すことはできないと諭される。
さらにコレットは、レオンがナナと呼ばれる高級娼婦のもとに入り浸っていることをミニョから聞く。華やかなサーカスと、その裏で進む重いドラマとのコントラストにも注目したい。
⑩「ON ANY GIVEN NIGHT(NANA’S SONG)」
歌い手:ナナ
コレットがナナからレオンの死を聞かされる。各キャラクターの心情と脚本を紡ぐように作られたダンカンの音楽は、まるで会話劇を聞いているような感覚で物語に没入させてくれる。
客を相手にするためサーカスの格好をしていたコレットは、ここで初めてナナと対面する。一目見ただけで、彼女がレオンの愛する娼婦だと気づく。
何カ月も行方が分からないレオンを心配するコレットは、男性客に囲まれたナナに飛び掛かろうとするが、取り押さえられる。
そしてナナは、レオンがもういないことを告げる。「広い世界を楽しみなさい」とコレットにアドバイスするナナ。コレットの物語が大きく変わる場面だ。
⑪「BIRDS」
歌い手:サカエ、カルメン
物語序盤の「SAKAE’S SONG」で見せた姿から一転、ホームレス同然となったサカエが歌う一曲。その落差からも、“人間の堕落”が色濃く表現されている。
物語の終盤、人生のどん底に落ちていたサカエとカルメンが路上で出会う。二人は語り合うことで、互いを救っていく。
サカエとカルメン、それぞれが抱える人間の“沼”が交錯するようなデュエットにも注目したい。
その後、二人がどうなったのかは分からない。しかし、コレットが書く文章の中では、彼らは生きている。
⑫「WHEN YOU DIE」
歌い手:コレット
コレットが最愛のレオンを失った悲痛な叫びを、繊細な旋律に乗せて歌う。
レオンの死を知り、打ちひしがれるコレット。彼女は、その悲しみを文章にすることで少しずつ癒やしていく。
コレットにとって“書くこと”が、自分の周囲の人々を記録するだけではなく、自らの感情や喪失と向き合うためのものへと変わっていく場面でもある。
⑬「SOMETIMES IN THE EVENING」
歌い手:レオン、コレット
もう会うことのないレオンとコレットが歌う一曲。「もしも、こんな世界があったら…」と、コレットが思い描く世界の中で、もう現実には存在しないレオンとの未来が立ち現れる。
二人が一緒に生きていたかもしれない人生は、コレットがずっと夢見ていたもの。切なさの残る場面だが、同時に、以前とは違うコレットの変化も感じられる。
レオンを愛していることは変わらない。それでもコレットは、少しずつ自分自身の人生を歩き始めている。
⑭「LOOK AT THE SKY」
歌い手:カンパニー全員
90分の物語を締めくくる最後の一曲。作家として執筆活動を続けるコレットに、彼女の小説のファンだというカフェのウェイトレスが話しかける。
自分も小説家を目指しているという彼女に、コレットはかつてサカエから聞かれた「何が君を笑わせるのか」「何が君を泣かせるのか」「何を求めているのか」という三つの質問を教える。
今度はウェイトレスが、コレット自身にその答えを尋ねる。コレットは、あの頃の自分にとって三つの質問への答えは、たった一つだったと振り返る。
「レオン」。
そんな時、コレットの前にレオンが現れる。これまでの後悔を告白し、最後に「君のことを誇りに思う」と告げる。
サカエからノートを渡され、自分自身について書き始めたコレットは、やがて作家となり、今度は自分が次の“書き手”に言葉を渡す側になった。
そして、コレットが文章を書き続ける限り、その物語の中でレオンも生き続ける。
一人の女性として成長したコレットは、果たしてレオンへの思いとどう向き合い、前へ進んでいくのか。最後までじっくりと味わいたい一曲だ。
MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN

期間
10月15日(木)〜2027年1月3日(日)
※プレビューは9月25日(金)から
場所
The Night Egg at the Culture Club
(530 W. 27th St.)
チケット
49ドル〜
公式Webサイト
https://www.memoirsmusical.com/















