死亡者の減少は終末期治療をしないからか?
このように見てきて思うのは、集団免疫戦略が成功したのか失敗したのかは別として、スウェーデンの感染者数と死亡者数が、他の北欧諸国と同様に減少し、収束を見せている不思議さだ。
これは、無策のために第2派の感染拡大を招いてしまった日本の政治家から見ると、うらやましい限りだろう。もし、このままスウェーデンのコロナ禍が収束すれば、日本はこのままなにもせず、コロナを放置して経済を回していても大丈夫かもしれないからだ。
ただ、スウェーデンの死亡者数が減ったことに関して私見を述べると、乱暴な言い方だが、やがて死ぬべき高齢者がほぼ死んでしまったからではないかと思う。新型コロナに感染して重症化、死ぬのは、高齢者が圧倒的に多い。しかも、心疾患、糖尿病などの持病を持っている人がほとんどである。
スウェーデンと日本の終末期医療の大きな違いは、スウェーデンが日本のような延命治療をしないことである。本人の意思を尊重する尊厳死を第一とするので、日本のように「寝たきり老人」をつくらない。日本では、回復しない、死を待つだけとわかっていながら、人口呼吸器、透析、胃ろうの3点セットで、生き長らせる医療がいまだに行われている。日本の終末期医療は「老人虐待」に近い。
このように考えると、日本の死亡者数の少なさは、欧米との終末期治療の違いも大きいのではないかと思う。とくに、スウェーデンとは大きな隔たりがある。
コロナ放置は経済的には成功したのか?
スウェーデンの集団免疫戦略が成功したかどうかを見るには、経済的な面も見る必要がある。日本の場合、第2波が拡大しても「Go To キャンペーン」を続け、再度の緊急事態宣言をしないのは、経済を優先しているからである。
したがって、集団免疫戦略で、スウェーデンの経済がどうなったかを見る必要がある。
最新のスウェーデン中央銀行の見通しでは、スウェーデン経済は今年4.5%のマイナス成長に陥るとされている。従来の見通しが1.3%のプラス成長だったから、大幅ダウンである。ロックダウンをしなかったのに、失業率も5月には9%近くまで上昇し、いまも高止まりが続いている。
これは、ロックダウンをしたデンマークの数値とほとんど変わらない。デンマーク中央銀行によると、デンマーク経済の今年の見通しは4.1%のマイナス成長である。
ノルウェーもまた同じだ。ノルウェー中央銀行によると、最新のノルウェー経済の今年の見通しは3.9%のマイナス成長である。ロックダウン期間中に示されたのが5.5%のマイナス成長だったから、大幅に改善され、スウェーデンを上回っている。つまり、経済成長率だけを見ると、スウェーデンの集団免疫戦略は、失敗だったことになる。
ただし、それでもスウェーデンの経済成長率の見通しは、ユーロ圏全体を上回っている。ユーロ圏の今年の経済成長見通しはマイナス8%である。スペイン、フランス、ドイツなどで第2波が拡大し、再びロックダウンが地域限定であれ行われているので、この数字はさらに下がるだろう。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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