ニューヨークにっぽん人もよう 第3回 柳川 朔 さん(26)

 
「サタデー・ナイト・ライブ」出演目指す スタンダップコメディアン

柳川さん。本人提供

 マンハッタン区イーストビレッジの劇場で、毎月1回行われるコメディーショー「RISK!」の4月末の公演に、トップバッターとして出演した。マイク1本で約15分間、英語で「すべらない話」を披露し観客を笑わせる。話したのは自分の「ラブライフ」について。毎月訪れるという白人の男性は「本当に面白かった。オチに向かう構成が良かった」と涙が出るほど笑った様子。主催のケビン・アリソンさんも「彼は素直に自分を出すところが素晴らしい」と評した。
 「Saku Yanagawa」として、イリノイ州シカゴを拠点に活動している。シカゴで経験と実績を積んだ先に見るのはニューヨーク進出だ。1つの目標はNBCテレビで40年以上続く看板番組「サタデー・ナイト・ライブ(SNL)」に日本人として初めてレギュラー出演すること。ニューヨークで「しっかりした」ショーに出たのは今回が初めてだったといい、手応えを感じていた。
 コメディーと出会ったのは約4年前、大阪大学の学生だったころ。中学、高校で野球に没頭したが、けがで断念、心を注げるものを探していた。そんなとき、ニューヨークで活動するスタンダップコメディアンの小池良介さんをテレビで見て、「これ僕もやりたい」と直感した。すぐにフェイスブックで名前を検索し、メッセージを送って翌日、ニューヨークに飛んだ。ニューヨークはもちろん、米国上陸も初めてだった。
 このニューヨーク訪問で必ずショーに出たいと思っていたため、飛行機でネタを考えた。マンハッタン中のコメディークラブを訪ね「床磨きと皿洗いするので舞台に立たせてください」と頭を下げて歩いた。ほとんど相手にされなかったが1カ所だけ受け入れてくれ、舞台に立つことができた。

「RISK!」のステージに立つ柳川さん (photo: Yuriko Anzai / 本紙)

 コメディアンとして初めてのステージ。緊張で何を話したかは思い出せない。ただテキサス州のコメディアンに「絶対やり続けろ」と背中を押してもらったことは覚えている。このとき、たまたま観に来ていた別のコメディアンにシカゴの劇団に誘ってもらえた。これがつながり、今やほぼ毎日舞台に立っている。年間約300公演をこなすまでになった。
 コメディーを続ける理由は「自分の目からしか見えない世界を自分の言葉で表現したい」という欲求から。米国でコメディーをやる上で、日本で生まれ育った視点を持つのは強みだ。「アメリカという国や文化に敬意を持ちながら、それをジョークにできたらそれが僕の本当の価値」と熱意をのぞかせる。
 コメディーは人々に「笑い」を与えるため、人の心深くに響くとも感じている。社会に対して何かを考えさせたり、新たな視点を与えるきっかけにもなり得る。「北風と太陽なら、太陽として語りかけられるコメディーはこの時代特に重要だと思う」
 しかし何と言っても一番の理由は、ステージ上でスポットライトを浴びながら、自分の言ったことに対して観客が笑いに包まれる感覚のとりこになったから。「強いて言うなら、野球でホームランを打ったときに球場が一気に沸く感じと似ている」そうだ。この感覚を味わってしまえば、どんなつらいことも忘れられる。それほど原動力になっているという。
 ニューヨークに来ると毎回足を運ぶのはマンハッタン区ロックフェラープラザのNBCビル。今回も公演の合間に訪問。ビル上層階のスタジオを見上げながら「SNLでここに絶対来る」と誓った。