連載365 山田順の「週刊:未来地図」対策は失敗続きなのにコロナ感染防止は成功:なぜ、日本の“奇跡”は起こったのか?(中)

首相も専門家も明確に答えられない

 5月14日、先の緊急事態宣言の一部解除の記者会見で、安倍首相と専門家会議の尾身茂副座長は、記者から、日本の死亡者数の少なさに関して、こう聞かれた。
「BCGを日本人は受けているからじゃないかとか、あとは文化的な違いがあるんじゃないかといった俗説がありますが、これについて総理や尾身先生はどのような差がこういった結果につながったというふうにお考えでしょうか?」
 これに対し、首相と尾身氏は、なにも明確には答えられなかった。まあ、答えられるわけがないのだから仕方がないが、正直に「わからない」と言えばいいものを、対策が成功したような言い方をするのだから、たちが悪い。
 しかし、本来なら、なぜ、日本がこんな状況で助かったか、国を挙げて全力で解明すべきだろう。そうしてこそ、今後の対策が立てられるというものだ。
 以下、「内閣府HP」より、2人の答弁を引用する。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0514kaiken.html
安倍首相:「私もBCGとの関連等について、もちろんいろいろな説があるということは承知をしております。日本において10万人当たりの死亡者の数というのは0.5近辺でありまして、世界でも圧倒的に小さく抑え込まれています。それについて様々な議論があるというふうに承知しておりますが、これは正に専門家の尾身先生から御紹介を頂きたいというふうに思いますが、いずれにいたしましても、現在の感染者数、もちろんこれだけの数の方が亡くなられたことは本当に痛ましいことでありますし、心から御冥福をお祈りしたいと思いますが、我々も欧米と比べて相当小さく抑え込まれているこの水準の中において何とか終息させていきたいと思っています」
茂氏:「簡単に。まずはBCGのことは、BCGが有効だというエビデンスは今のところございません。それから日米欧との差ですが、これは基本的には、私は3つあると思います。1つ目は、やはり日本の医療制度が比較的しっかりして、全員とは言いませんけれども、多くの重症者が今のシステムで探知できて、適切なケアが行われて、医療崩壊が防げているということが1点目だと思います。それから2点目は、特に初期ですね、感染が始まった初期に、いわゆるクラスター対策というのがかなり有効だったと思います。それから3点目は、これが最も重要かもしれませんけれども、国民のいわゆる健康意識が比較的高いという、この3つが大きな原因だと今のところ私は考えております」

実証されていない「BCGワクチン説」

 では、「BCGワクチン説」から検討していきたい。日本で、「BCGワクチン説」が広まったのは、4月初めに、「medRxiv」という査読前の論文を掲載するサイトに、BCGワクチンを摂取している国と、新型コロナウイルス感染症の症例数と死亡数が少ない国との間に相関関係が見られるという論文が掲載されたことによる。
「Correlation between universal BCG vaccination policy and reduced morbidity and mortality for COVID-19: an epidemiological study」https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.24.20042937v1
 この論文では、BCGワクチンを定期接種にしている国(日本、中国、韓国、香港、シンガポール、ベトナム、マレーシアなど)は感染者が少なく、接種をしていない国(イタリア、スペイン、アメリカ、フランス、イギリス)では感染者が多いとしていた。これを受けて、日本でも統計解析が行われ、統計的には確認された。
 ただし、因果関係を立証するためには、最低限、「症例対照研究」が必要とされるが、そちらのほうは進んでいない。オーストラリアなど複数の国で、BCGワクチンによる新型コロナ予防効果をみる臨床研究が開始されたが、結果が出るのはまだ先になる。
 ただし、5月14日、イスラエルのテルアビブ大学の研究グループによって、BCGワクチン説が否定される論文が発表された。この論文では、イスラエルが1982年までBCGワクチンの定期接種を行っていたことに注目し、接種を受けた世代と受けていない世代で感染する割合に差があるかどうかを解析していた。結果は、感染した人、重症化した人に差はなかったという。つまり、BCGワクチンには予防効果は認められなかったというのだ。
 ところで、日本でBCG接種が義務付けられたのは1951年以降のこと。よって、いまの70歳以上はほとんど接種していない。高齢者ほど感染すると重症化し、死亡リスクが高まるという点から見ても、「BCGワクチン説」は、かなり怪しい。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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