連載458 山田順の「週刊:未来地図」ついに炭素税導入! 政府が慌てて策定した 「グリーン成長戦略」の危うさ(中)

「グリーン成長戦略」策定を急いだ理由

 菅首相が、「グリーン成長戦略」の策定を急いだ理由は、第一にアメリカにバイデン政権が誕生したことである。トランプが無視し続けた地球温暖化対策を、バイデンは優先課題とし、「グリーンニューディール」を進めると表明。

「パリ協定」に復帰することも示唆した。

 となると、日本も、環境対策で“周回遅れ”では済まなくなる。外務省と経済産業省、環境省などの省庁、そして国際派の取り巻きが、首相へ進言したわけだ。

 さらに、日本の産業界のなかには、環境ビジネスを推進しようという人々がいる。環境ビジネスは儲かる。なにしろ、政府が税金を注ぎ込んでくれる。

 会食が大好きで、人の話を聞くことが役目だと勘違いしている菅首相は、彼らに吹き込まれた。

 すでに、「2050年カーボンフリー」は、欧州諸国を中心に世界の約120カ国が表明している。2030年代の「ガソリン車販売禁止」も、多くの国が宣言し、いわば国際世論になっている。

「そろそろ、この流れに乗らないと、対策遅れで自動車から他産業まで世界市場から取り残される」という声が強まっていた。

世界の環境対策をパクるだけでは意味なし

 私は、こうした声は間違ってはいないと思う。

 地球温暖化の犯人が温暖化ガス(二酸化炭素)という説には反対だが、日本が国際的な流れに乗り遅れるのはよくないとは考えてきた。このまま取り組みが遅れると、取り返しがつかなくなる可能性があるからだ。

 ただし、現在、世界で進められているグリーンニューディール政策は、方向が間違っているのではないかと思っている。地球環境をクリーンにするのはいいが、その行き過ぎで経済が停滞しては意味がない。また、温暖化の犯人が二酸化炭素でなかったときにどうするかという視点が欠けている。

 さらに、世界で進められている政策をそのままパクるだけでは、日本にとってのメリットはない。

 しかし、自民党内においても、産業界においても、これまで、この問題の本質的な議論はほとんど行われてこなかった。とくに炭素税などのCPに関しては、突っ込んだ議論が行われたことはない。

 それは、発電においても、自動車においても、日本の環境技術が群を抜いていたからだろう。日本の化石燃料発電は、二酸化炭素の排出を極限まで抑えられる。また、日本の「PHV」(プラグインハイブリット車)は、「EV」よりはるかに優れている。

 しかし、世界は、化石燃料と二酸化炭素を完全否定する流れになっている。

炭素税? すでに地球温暖化対策税がある

 ここで、炭素税について考えてみたい。

 これをやると、間違いなく、燃料や電気代が値上がりする。フランスでは炭素税引き上げが原因で、あの「黄色いベスト運動」が起きた。

 しかも、日本にはすでに「地球温暖化対策税」がある。これは、2012年に創設されたもので、化石燃料に一定額を上乗せするものだ。また、温暖化ガスを吸収する森林を整備するための「森林環境税」の創設も決まっていて、これは2024年から徴収が始まる。

 化石燃料を目の敵にするのが炭素税だが、じつは、化石燃料自体には、すでにさまざまな税金がかかっている。原油や液化石油ガス(LPG)、石炭には、数量に応じて一定額を支払う「石油石炭税」がある。さらに、製造から利用のプロセスにおいても、「揮発油税」や「軽油引取税」、「航空機燃料税」、「石油ガス税」などがある。

 となると、これらの税との整合性を考え、整理をつけたうえで創設しないと、企業の負担が増えるばかりか、特定の企業に大きな負担がかかるという不公平が生じる。

 さらに、家庭にも大きな影響が出る。排出量の超過による課金が行われたり、炭素税が電気やガスの値段に転嫁されたりすれば、そのまま家庭の負担が増えてしまう。

 いったい、政府はどうしようというのだろうか?

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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