2025.01.16 COLUMN DAILY CONTENTS 山田順の「週刊 未来地図」

緊縮で奇跡の復活を遂げつつあるアルゼンチン バラマキで衰退を続ける日本(上)

 かつて何度もデフォルトをし、高インフレ、高失業率、マイナス成長、財政赤字という苦境に陥っていたアルゼンチンが、いま、奇跡の復活を遂げようとしている。新大統領が、就任たった1年で、財政を黒字転換させたのだ。
 約20年前、不良債権処理が進まず、財政赤字が膨らむ一方の日本の将来をアルゼンチンにたとえたことがある。このままでは日本はアルゼンチンになってしまうと—。
 このたとえは、間違っていなかったばかりか、いまでも有効である。財政赤字を積み上げ、国民受けのバラマキばかりを繰り返していては、日本は間違いなくかつてのアルゼンチンになる。

世界でも類を見ないリバタリアン大統領

 2024年12月10日、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は、就任1年を迎えた。その1週間ほど前、彼は首都ブエノスアイレスで開かれた保守派の政治集会で、自身の政治信条である「リバタリアニズム(libertarianism)に基づく主張を熱く語った。
 リバタリアニズムは、日本では「自由至上主義」と解説されるが、政治的には、できうる限りの「小さな政府」(small government)によって行政を行うことである。
 すなわち、政府は個人の生活、生き方を規制してはいけない。市場に介入してはいけない。経済は市場に任せるというのが、バタリアニズムであり、その考えを実践して生きる人々をリバタリアンと呼ぶ。要するに、国などに頼らず「独立自尊」で生きるということである。
 ハビエル・ミレイは、もともとはオーストリア学派に強い影響を受けたエコノミスト(経済学者)で、議員になってわずか2年で大統領選に出馬して勝ち、この1年、大改革を進めてきた。現在、世界を見渡してみて、リバタリアンを標榜している大統領など1人もいない。
 彼は、今年の9月の国連演説でも、リバタリアニズムを強調した。彼は常にこう言っている。
「現在、西側諸国は危険にさらされている。規制に反対し、市場の失敗という考えを捨てなければいけない」

財政黒字を達成しインフレを沈静化

 この1年間で、アルゼンチンの経済数値は劇的に改善した。なんといっても、単月ベースでの財政収支が黒字転換したことには驚かされる。過去のどの政権もなしえなかったからだ。
 ミレイが大統領に就任した2023年12月のアルゼンチンの財政収支は、36億3100万ドル(約5450億円)の赤字だった。それが、翌月2024年1月はプラスに転じ、以降ずっと黒字を続けてきている。リバタリズムらしい撤退した緊縮および規制緩和政策の成果である。
 財政収支が黒字転換したことで、インフレは沈静化した。消費者物価上昇率は、2023年12月には25.5%もあったが、2024年5月に4.2%まで低下した。
 その結果として、中央銀行は、政策金利を2023年12月の126%から2024年5月までに40%に段階的に引き下げた。また、貿易収支も大幅に改善した。それまでは通年で赤字だったが、今年は一転して黒字になることになった。

IMFの厳しい融資条件をやっとクリア

 このような経済数値の改善をもっとも歓迎しているのが、IMFである。これまで、IMFは、アルゼンチンに何度も融資をしてきた。しかし、融資の条件となる経済再建のための改革が、期限通りに行われたことは1度もなかった。
 ところが、ミレイ政権はある程度の再建を数字で示したため、債務の再編(借り換え)が可能になった。2024年6月、IMFはアルゼンチン政府に対して、6億SDR(約8億ドル)の融資を可能にすることを決定した。
 IMFの融資条件(conditionality:コンディショナリティ)は厳しい。当たり前だが、徹底的な緊縮が求められ、構造改革を要求される。そうして、四半期ごとに条件に基づく評価が行われる。ミレイ政権はこの条件をある程度クリアしたわけだが、まだまだ改革途上である。
 IMFから求められているのは、緊縮を維持しつつ経済成長に繋がる改革をすることだ。
 IMFの評価に、市場は敏感に反応する。アルゼンチン国債は、昨年まではリスクプレミアム(危険負担料)が40%も載せられていたが、15%ほどまでに下がった。もちろん、日本国債はデフォルト(債務不履行)リスクがないと見られているので、リスクプレミアムは要求されない。ただし、格付け(ムーディーズ)は、主要国のなかでは最低ランクのA1で、韓国のAa2より下だ(ちなみにアメリカ国債、ドイツ国債はAaa:トリプルA)。

この続きは1月17日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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