2025.02.27 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊 未来地図」トランプが突きつける防衛費のさらなる増額 命運を握るのは国防次官E.コルビー(完)

主体的な防衛力を持て!2%は焼け石に水

 コルビーは、子供のころ日本で過ごしたため、日本に愛着を持っているが、日本に対する見方は厳しい。これまでに彼が書いた論文、メディアのインタビューなどを見ると、「日本よ目を覚ませ。現状では、日本の防衛は不十分。対中防衛を強化せよ」と繰り返し述べている。
 彼の日本での最初の著者が、タイミングよく、昨年10月に文春から刊行されている。『アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略』(文春新書)という本で、この本の帯には、次のようなフレーズが並んでいる。
アメリカ一強の時代は終わった/アジアはパワーの集積地/中国の支配を拒否する「反覇権連合」/最終目標は「中国に勝利」することではない/経済制裁よりも軍事を充実させるべき/台湾の次はフィリピン/「拒否」できるかどうかもあやしい/第一列島線から中国を出すな/ゴールは「アメリカの覇権」ではない/ネオコンの主張は妄想である/アメリカは究極的には撤退する可能性もある/中国は「張子の虎」ではない/日本は主体的な防衛力を持て/防衛費2%は焼け石に水

日本の貢献は嘆かわしいほど不十分

 次は、文春の本とほぼ同じ内容を語っている『Wedge』(2022年11月号)のインタビュー記事。ここにきてウエブで『トランプ政権の要が直言 日本よ、目を覚ませ!エルブリッジ・コルビー氏が日本人に伝えたいアメリカ人の本音』として再録されているので、以下、重要な部分を引用したい。
《その結果、米国は、中国がアジアにおける地域覇権を握ることを阻止するための支援を必要としている。中国を支配する、あるいは崩壊させるという話ではない。米国はただ、アジアにおいて妥当かつ持続可能な勢力バランスを確立するための支援を求めている。》
《そうしたパワーバランスが存在すれば、日本などが強い立場から中国と交渉できる。そうでなければ、われわれは皆、中国政府のなすがままになる。》
《旧友として、ここは正直に言わせてもらおう。集団的防衛はおろか自国の防衛に対しても、日本の貢献は嘆かわしいほど不十分だ。日本は莫大な国内総生産(GDP)の1%強しか防衛に費やしておらず、その比率は米国や韓国、台湾、豪州、インドに遠く及ばない。》
《この状況は持続不能であり、主に二つの理由から著しく危険だ。》
《第一に、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第一列島線」に沿った同盟国の集団的防衛を軍事的に現実的なものにするためにも、日本が防衛費を増やし、対策を強化する必要がある。日本が努力をかなり強めない限り、米国と他の同盟国だけでは人民解放軍に対抗するリソースを欠く。何しろ人民解放軍は、巨大で今後も成長する見込みの中国経済によって財源が賄われている。これは単純な算数の問題だ。》
《第二に、防衛を強化できない日本は、日米同盟の崩壊を招くリスクを冒す。米国民の間で日本は無気力で不公平だという認識が生まれるためだ。ここで米国民が毎年、所得の3.5%以上を防衛に費やしていることを心に留めてもらいたい。それにもかかわらず、米国の防衛努力の大部分は同盟国の防衛に割かれている。米国本土は厳重に守られているからだ。》

トランプの要求を拒否するという選択はない

 以上でわかるように、トランプ政権は間違いなく、日本に防衛費のさらなる増額を求めてくる。岸田前政権が決めた2%では足りず、コルビーがいうように、最低でも3%は求めてくる。
 はたして石破政権はこの要求を受け入れるのか、それとも自主的に引き上げを決めるのか、どうするのだろうか。
はっきり言って、拒否するという選択はトランプ政権だけにあり得ない。
 なぜなら、トランプのアメリカは、中国、ロシア、そしてイランという敵国と戦争までする気はないし、その力もないからだ。トランプがいくら大王だとはいえ、彼らを力で跪かせることできない。となると、道は「ディール」(取引)以外になく、それを有利にするためには、日本の防衛力の増強が必要なのである。
 石破政権、いや私たち日本人は、とんでもない時代を迎えたと言うほかない。この先、増税して防衛費をさらにあげれば、国民はさらに貧しくなる。「楽しい日本」などと言っている場合ではない。

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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