『杉浦邦恵:Something Else』チェルシーのアリソン・ブラッドリー・プロジェクツ(526 West 26th St, Suite 814)にて 6月28日まで
『杉浦邦恵:フォトペインェング』アメリカで初めての大規模個展、サンフランシスコ近代美術館にて9月14日まで

各 61 × 50.8 cm、Upside Down Pyramid(逆さのピラミッド)1995年
フォトグラム、ゼラチン・シルバー・プリント12点(6組のディプティック、ポジ/ネガ)。提供:ダリオ・ラサーニ氏
杉浦邦恵は、写真を絵画の領域に融合させ、新たな表現を押し広げてきた。アンディ・ウォーホルは作品に写真を取り入れた初期のアーティストの一人だが、主にシルクスクリーン技法を使用した。この技法では、ネガ(フィルム)を感光乳剤を塗布したスクリーンに密着させ、紫外線などの光を照射して露光する。この露光により、画像をスクリーン版に転写する。簡単に写真画像をポスターやTシャツに複製できるこの手法は、60〜70年代にアートでも商業的にも人気があった。杉浦は、写真と絵画を融合させたウォーホルの作品に刺激を受けたと語っている。しかし、彼女自身はシルクスクリーン技法を用いず、写真技法を使い一点物のアート作品を制作している。
杉浦はシカゴ美術館附属美術大学(SAIC)在学中に2度ニューヨークを訪れ、1967年卒業式の「次の次の日に飛んで行った」。住まいや仕事を見つけるまでに苦労もあったが、1972年にニューヨークのウォーレン・ベネデック・ギャラリーで個展を開催した。今回アリソン・ブラッドリー・プロジェクツで展示されている『Island_2』は、その時展示された野心的な作品だ。縦2メートル弱x横2メートル強の、この大きな作品を制作するのに、杉浦は、ニューヨークの抽象表現主義者たちが好んで使った綿キャンバスに感光乳剤を何度も塗り重ねた。濡れたキャンバスを取り扱いながら、コニー・アイランドの防波堤のクローズアップ写真を投影した。作品を完成させる手法は革新的かつ見事である。
同じ年にホイットニー美術館のキュレーターだったマーシャ・タッカー*に作品が認められ、同館のペインティング・アニュアル(1973年からホイットニー・ビアンナーレとなる)に選出された。*タッカーは1977年にニューミュージアムを創立。
杉浦は1973年にチャイナタウンにアトリエを構え、以来ずっとそこで制作を続けている。住まいとしても使っていて、彼女はその場所をとても気に入っていると語っている。ニューヨークで創作を続けるには、昼間の仕事が必要で、アシスタントが雇える前であったリチャード・アヴェドンRichard Avedonに面接も受けたこともあった。シカゴ時代からのアーティストの作品のスライド写真撮影(当時はポートフォリオにスライドが必須だった。レッド・グルームスRed Groomsの作品撮影もしている)他、広告代理店の仕事や、日本製品を販売していたAZUMAでパートタイムの仕事もした(こうしたパート仕事の方がカメラ仕事よりも精神的に楽だったそうだ)。また1986〜2008年まで『美術手帖』にニューヨークの展覧会レビューを寄稿していた。

アリソン・ブラッドリー・プロジェクツで展示されている作品『Tip』は1978年の作品で、夜のツインタワーをフェリーから撮影した2枚のキャンバス画像の間に、青く塗られた木製パネルを置いている。三つの要素の質感、配置、比率が、心に残る記憶を喚起させる。
展示されている他の作品は、1989〜2000年に制作された。花のフォトグラムはSAICの入門コースで学んだ技法による。これらの作品のアメリカでの反応は否定的で、女性アーティストは怒りを表現するべきではないと言われた。しかし、同じ作品が日本で展示されると高い評価を得た。文化によって受け止め方が異なることを実感した。作品『Filaments C』(100.3 × 74.3 cm)は、花とかぎ針用の糸のシルエットが黒い背景に映え、自然と人工物の対比が優雅に表現されている。
杉浦の作品が本格的に評価され始めたのは、1997年ニューヨーク近代美術館で開催された『New Photography 13』展以後のことだった。この時点でようやく昼間の仕事を辞めることができた。
2018年、『杉浦邦恵、うつくしい実験/ニューヨークとの50年』が東京都写真美術館で開催された。それまでに、2014年、2016年には東京のタカ・イシイ画廊で、2016年には同画廊のニューヨーク店にて、1996年〜2015年の間にはレスリー・トンコノフ・アートワークス&プロジェクツで7回の個展を開催してきた。そして、2023年にアリソン・ブラッドリー・プロジェクツでの初の個展が開催された。
杉浦の作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、サンフランシスコ近代美術館(SF MoMA)、テート・モダン(ロンドン)、国立近代美術館(京都、東京)、東京都写真美術館、広島市現代美術館などのコレクションに収蔵されている。
参考資料:「杉浦邦恵オーラル・ヒストリー」富井玲子と池上裕子によるインタヴュー、 2008年9月15日 、日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ(URL: oralarthistory.org);ロバート・パロンボーのヴィデオ「 杉浦邦恵」、サンフランシスコ近代美術館サイト
文/中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセサリー・アーティスト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴38年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
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