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連載『It’s okay not to be okay 〜大丈夫じゃなくても大丈夫〜』小風華香が聞く心のケア 第6回
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連載『It’s okay not to be okay 〜大丈夫じゃなくても大丈夫〜』小風華香が聞く心のケア 第5回
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連載『It’s okay not to be okay 〜大丈夫じゃなくても大丈夫〜』小風華香が聞く心のケア 第4回
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連載『It’s okay not to be okay 〜大丈夫じゃなくても大丈夫〜』小風華香が聞く心のケア 第3回
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連載『It’s okay not to be okay 〜大丈夫じゃなくても大丈夫〜』小風華香が聞く心のケア 第2回
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連載『It’s okay not to be okay 〜大丈夫じゃなくても大丈夫〜』小風華香が聞く心のケア 第1回
心のケア、あなたはどう考えていますか?
ニューヨーク在住の日本人コミュニティー、特に駐在員と帯同ご家族の皆様に向けてお届けするシリーズ。第7回は、マウントサイナイ医科大学で医療に携わりながら、9.11同時多発テロ事件や3.11東日本大震災の災害を契機に、心のケアと身体のケアを一体として捉える総合的な災害医療の重要性を発信してきた内分泌科医、柳澤ロバート貴裕先生に「心のケア」について聞きました。

1. 普段の診療や支援活動の中で、患者さんやご家族の心の負担を感じるのはどのような瞬間ですか。そんなとき、先生はどのように対応されていますか?
心の負担を感じる瞬間は本当にさまざまです。分かりやすい例で言えば、9.11の被災者やその家族、そして警察官や、倒壊後の現場で清掃や復旧作業に当たった人たちですね。身体の検査をきっかけに来院される人も多いのですが、話を聞いていくうちに、あの時の体験が今も日常生活に影響していることが少なくありません。
マウントサイナイ病院には、9.11に関わるこうした人たちを対象にした支援プログラムがあり、身体のケアだけでなく、心のケアも「当然必要なもの」としてプログラムの中に組み込まれています。心のサポートが特別扱いされるのではなく、必要に応じて定期的にフォローされ、専門職につながれる体制が整っているんです。だからこそ、身体の医療を担う私たちも最初から「心のケア」を含めて考えながら関わっていくことが大切だと思っています。その上で重要なのは、いきなり「心の話」をすることではなくて、その人がどんな経験をして、今どう感じているのかを丁寧に聞くことです。
例えば、「あの出来事は、あなたにとってどんな影響がありましたか」といった形で少しずつ話せる糸口を作っていくんです。特に災害や大きな喪失を経験した人にとっては、身体の回復と心の回復は全く別物です。心の回復の方が長くかかることが多い。だからこそ焦らずに、その人のペースに合わせていくことを大事にしています。
2. 先生のご経験の中で、心のケアの重要性を強く実感した出来事はありますか?
9.11の家族支援に関わる中で強く感じたのは、心の傷というものは「一度ケアをすれば終わる」ものではないということです。私はよく「津波のようなもの」と表現するのですが、一度引いたように見えても、また波が来る。記念日やニュース、あるいは何気ない日常の出来事で突然フラッシュバックが起きることもあります。
実際、私が関わったケースの中には、ニューヨークの地下鉄に乗れなくなってしまった人もいました。地下鉄に入った瞬間に息苦しくなり、身体が固まってしまう。頭では「大丈夫だ」と分かっていても、身体が反応してしまうんです。でも、そういうときに支えになるのは専門的な治療や技術だけではありません。その場にいる仲間が寄り添い、そばにいてくれること。誰かが支えてくれること。それだけで、また一歩進めることがある。こういう場面を目の当たりにすると、治療や支援の本質は、専門的な技術だけではなく「つながり」そのものなのだと改めて感じます。
3. 9.11の被災者や遺族が日本の3.11の被災地を訪れ、現地の人々と交流したと聞きました。そこから見えた心のケアのヒントはありますか?
日本での交流はとても印象深い経験でした。米国日本人医師会やロータリークラブの協力を得て、9.11の被災者やご遺族の6〜7人を日本の被災地にお連れし、3.11の被災者と対話する機会を作りました。正直言って、アメリカ側の参加者にとっては感情的に負荷の高い経験でした。涙が止まらなくなったりPTSD症状が強く出たりする場面もありました。それでも結果的には、その対話がとても「治療的」だったと感じています。
特に興味深かったのは、日本の参加者が普段よりも自分の体験を語りやすくなっていたことです。同じような経験をした人同士が話すことで、「自分だけではない」と実感できる。言語や文化の違いを超えて共有体験が人の心を開く瞬間があるんです。アメリカは災害支援の制度やプログラムが整っている面がありますが、日本は災害経験が多く、そこから得た知恵が豊富です。日米が一方的に学ぶのではなく、双方向に学び合うことがとても大切だと思っています。
4. 先生は甲状腺疾患やがんの患者さんとも多く向き合われていますが、身体の病気と心の負担はどのようにつながっていると感じますか?
例えば甲状腺がんの患者さんは、診察室に来るたびに涙が出てしまう人もいます。検査や数値の問題だけではなく、診断を受けた瞬間のショックそのものがトラウマになっていることがあるんです。がんは身体の治療が長く続くことも多く、「これからどうなるんだろう」という恐怖が心に重くのしかかります。
そうした不安や緊張が強い人の場合、診察そのものがつらい体験になってしまうこともあります。だからこそ、患者さんの中には、配偶者と一緒に来院される人も少なくありません。診察室に一人で入るのが怖い、話を聞くのがつらい、そういうときにそばにいてくれる存在が大きな支えになるんですね。そして、こうした患者さんの不安や負担を支えるために、医療機関側にも体制が必要になります。
マウントサイナイ病院では、精神科やソーシャルワーカーなど多職種と連携できる体制があります。だからこそ、「この人は今、心の支えが必要だ」と感じたときに、すぐにつなげることができる。こうした体制はスティグマを減らす意味でも非常に重要です。心の不調を特別視するのではなく、身体の病気と同じように自然にケアする。そういう環境があるだけで、患者さんのハードルは大きく下がります。
5. ニューヨークの日本人駐在員や家族が、心のケアにつながる上で課題になることは何でしょうか?
一番大きいのは言語の壁とスティグマだと思います。駐在員が忙しくて限界まで頑張ってしまうケースもありますし、それ以上に見落とされやすいのが家族です。英語が話せない配偶者や高齢の家族が、外とのつながりを持てずに孤立してしまうことがあります。そういうときに日本語で相談できる医療者やコミュニティーがあることは、とても大きな支えになります。
そしてもう一つ大事なのは、心の健康は「血圧や糖尿病と同じ」という感覚を持つことです。必要なら長期的に支援を受けていい。精神的な治療は短期間で一気に良くなるものではなく、時間がかかるのが自然です。それを「弱さ」と捉えるのではなく、健康管理の一部として受け止めることが大切だと思います。
6. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
どんなときでも誰かに支えてもらうことは恥ずかしいことではありません。むしろ人間にとって自然なことです。特に異国で暮らしていると、気づかないうちに疲れやストレスが積み重なります。「自分は大丈夫」と思い込んでしまうこともあります。でも、誰かに話すための場所があるだけで心が軽くなることがあります。大切なのは、「一人ではない」と感じられること。つながりを持つこと。必要なら、専門家の助けを借りることです。少しでも苦しいと感じたら、早めに誰かに相談してほしいと思います。

ナビゲーター:小風華香(Haruka Kokaze)
ワン・マインド(One Mind)/コロンビア大学メンタルヘルス+ワーク・デザイン・ラボ(Columbia University Mental Health + Work Design Lab)職場メンタルヘルスリサーチアソシエイト兼日本ストラテジー主任アナリスト スタンフォード大学病院 ハートフルネスフェロー
父の仕事の関係で東京、ニューヨーク、ヒューストン、ロンドンで育つ。幼い頃から、日本人駐在員とその帯同家族が精神的な困難に直面していること、また日本特有の価値観や人間関係を理解するメンタルヘルス専門家がアメリカでは十分ではないことを実感。現在はワン・マインドとコロンビア大学メンタルヘルス+ワーク・デザイン・ラボで、職場メンタルヘルスリサーチアソシエイトおよび日本ストラテジー主任アナリストとして、日本国内本社と海外支社の駐在員および帯同家族が直面するメンタルヘルスケアの課題に取り組む。同時に、企業とのパートナーシップ構築と成長支援にも注力している。2026年、ニューヨーク日系人会(JAA)と米国日本人医師会の理事に就任。兵庫県神戸市生まれ。
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