若者に逃げられ「ヒマ老人」ばかりが残った
私に次回研修の案内が来るのと前後して、組織委員会は、大会ボランティアの落選者に通知文を公式ホームページなどで送付し始めた。
発表によると、落選者は約12万人。今後の共通研修を経た採用予定者は8万421人。私はそのなかに入ったわけだ。
男女比は39%と61%で女性が多い。さらに、外国籍者は12%もいて、中国や韓国が多く、ほかにはブラジル、英国など過去の大会開催地からも希望者が多く集まったという。
問題点は、60歳代以上が、なんと1万1000人。全体で、40~50歳代が約4割以上にも上ることだ。つまり、ボランティアは中高年中心で、働き盛りの10~30歳代が5割ほどしかいない。
はっきり書いてしまうと、ボランティアは「ヒマ老人」が中心ということになる。
応募段階では、10歳代の若者が約25%、20歳代の若者が約36%いたという。しかし、オリエンテーションへの出席率が低く、結果的に採用は16%にとどまった。それはそうだろう。オリエンテーションがみな平日に行われたのだから、学校や会社に行っている彼らが出席できるわけがない。
そして、それ以上に問題があったのが、ボランティアの待遇の悪さと、組織員会の配慮のなさだった。
ボランティアは単なる無償の労働者なのか
東京五輪のボランティアに関しては、当初から問題視されてきた。「ただボラ」(無償の奴隷労働)、「やりがい詐欺」(やりがいがあるといって募集して働かせるだけ)などと批判されてきた。すでに私もこのメルマガで、このことを2回取り上げている。
ボランティアはもともと無償だから、「ただ働き」と批判しても仕方ない。ただし、当初、交通費も食事代も出ないうえ、宿泊も用意されないとされたのだから、批判されて当然だった。これでは、地方から参加する人は、大幅な持ち出しを覚悟し、宿泊先も自分で探さなければならない。
また、期間中、最低10日間は活動することが条件とされたので、そんな時間をつくれるのは、ヒマな人間しかいない。
さらに言えば、東京オリンピックは巨大な商業スポーツのイベントで、収益が見込まれる事業である。スポンサーがついて協賛金が4000億円以上も集まっている。
なのに、無償のボランティアを使うのは、その分、そっくり主催者と協賛企業などの儲けに回るだけになる。
しかし、こうした批判に組織員会は聞く耳を持たず、20万人も応募があったのをいいことに、これまで改善策を打ち出してこなかった。
結局、現段階では、昼食などの食事と参加会場への交通費(自宅あるいは宿泊先からのみ)の支給は決まったが、それ以外はなにも支給されないことになっている。
暑さ対策は自分で。すべては自己責任
ボランティアに応募した中高年(私も含む)が、いま、もっとも懸念しているのが、夏の酷暑である。1年中でももっとも暑い、おそらく日中の気温が35度を超えるなかで活動するのだから、熱中症になるリスクが高まる。
組織委員会から委託されてボランティアのサポートする日本財団ボランティアサポートセンターが、8月16日に公開した検討会の報告の内容を「日刊ゲンダイ」(2019年8月20日付)の記事が伝えている。
<大会時のボランティア活動の環境について、暑さ対策は基本的には自己管理>
<マラソンなど早朝に行われる競技については、ボランティアの会場入りが始発の交通機関でも間に合わないため、終電での会場入りを想定>
<その場合は待機時間が見込まれるため、ボランティア同士の交流機会や、士気を高めるような取り組みを検討していく>
これは、ボランティアが酷暑で倒れて熱中症になったら、「それは自己責任」ということなのだろうか。早朝競技に関しては、終電で会場入りし、競技開始まで待機するとしたら、本番は寝不足で迎えることにならないだろうか。
日刊ゲンダイ記事は、ボランティアの自己責任や徹夜の交流会について組織委員会に問い合わせている。その回答はこうだ。
「暑さ対策は、事前対策と自己管理が大切であると認識しています。研修で周知徹底を行うとともに、活動時には対策グッズを配布、休憩時間を十分に取れるシフトを検討しています。仮に活動中に熱中症になってしまった場合には、保険(組織委負担)の対象となり得ます。(交流会については)検討中です」
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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