連載557 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(中2)

連載557 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(中2)

デジタル化最先進国アメリカの状況

 世界デジタル競争力ランキングの第1位は、言うまでもなくアメリカである。アメリカのデジタル化の特徴は、ほとんどが民間、つまり、自由主義経済の枠組みのなかでのデジタル化であるということだ。

 接触確認アプリにしても、連邦政府レベルのものはなく、州ごとに開発された。また、ワクチンパスポートにしても、連邦政府は「証明書の携行を義務付けることは自由の侵害になる」とし、州ごとの判断に委ねた。そのため、ハワイ州やニューヨーク州などは、独自のワクチンパスポートをつくった。

 これらの動きを促進させているのが、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル(GAFA)に代表されるビッグ・テック企業と、ITベンチャーである。残念ながら、日本にはアメリカのビッグ・テック企業に比肩する企業は1社もない。

 現在、アメリカは世界最大のDX市場であり、その規模は、2020年の世界全体のDX支出額の3分の1を占めている。デジタル化への企業の投資も活発で、IT調査・アドバイザリー企業のガートナー社の調査(「Gartner Digital Enterprise 2020 Survey」)では、デジタル化を推進しなければ市場での競争力を維持できないと考える企業は全体の3分の2以上に上っている。

 しかし、日本では、コロナ禍でテレワークが推進されたものの、ネットワークで仕事する人間の数は増えず、企業のテレワーク投資もあまり進まなかった。いまだに、一部の企業や官庁では、ファックスを使用しており、ほとんどの仕事が紙ベースになっている。

 社内の一般文書も紙、決裁書も紙、契約書も紙だ。いまもなお、紙文化が色濃く残っている。

FAXでデータをやり取りしていた保健所

 日本で仕事をすると、紙の文書と電話とFAXが主流になると伝えると、アメリカ人は仰天する。電話はいいとして、FAXがいまだに使われていることが信じられないと言う。

 このことに関して思い出すのは、いまからちょうど1年前、「ニューヨーク・タイムズ」紙((2020年5月1日)に「Fax-loving Japan to introduce online system for reporting coronavirus」という、FAX大好きの日本を揶揄する記事が掲載されたことだ。もちろん、日本のメディアの報道からの記事だったが、読んでみてあまりに情けなくて言葉を失った。

 なにしろ、当時、保健所では電話とファックスで、コロナ禍に対応していたのだ。これを改善した東京・港区の例が、「ITメディア」(2020年8月20日)の記事で紹介されていたので、以下、少々、引用して解説したい。

《港区の情報システム部門である情報政策課で個人情報保護を担当している日野麻美係長は4月20日にみなと保健所への兼務辞令を受け取った。日野係長は自ら手を挙げて新型コロナ感染者に対する療養費などの支給事務に従事するため、他の職員とともに保健所の支援に加わった。

 だが翌日、日野係長が保健所に赴いてすぐ目の当たりにしたのは驚きの光景だった。職員が電話や手書き書類、FAXと格闘するアナログな事務作業に忙殺されていたのだ。

 感染症法は、医師が新型コロナの感染者だと診断すると直ちに「新型コロナウイルス感染者発生届(コロナ発生届)」を書いて管轄である最寄りの保健所に届け出るよう義務付けている。コロナ発生届のほとんどはFAXで届く。》

 

 FAXで送られてくる情報は、すべて手書きである。そのため、判読できないものや記入漏れがあったりする。また、住所、氏名に間違いが多かった。そのため、保健所員は、診断した医師に確認の電話をかけ、その作業が深夜にまで及んでいたのだ。

 驚いた日野係長は、すぐにこれを改善しようと動いた。翌日、みなと保健所の松本加代所長の了解を得て、中間サーバー接続端末や庁内連携情報照会用の端末を確保したほか、住基ネット用端末の利用権限を追加申請し、保健所会議室に設けられた仮設事務室に、これら端末とプリンターをセットアップしたのである。

 これにより、人海戦術による電話をかける業務が激減した。コロナ患者の発生届の事務的作業は、端末操作をするだけで必要な情報を入手できるようになったのだ。

(つつく)

この続きは6月23日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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