2024.09.09 NEWS DAILY CONTENTS COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

「トランプvs.ハリス」大統領選が暗示するアメリカ白人優位社会の終焉 (完)

この記事の初出は2024年8月13日

インド人と黒人の混血であるという意味

 白人優位社会が崩れるという文脈で、今回の大統領選挙を見ると、カマラ・ハリスの存在は、本当に大きな時代的な意味がある。
 彼女が大統領になれば、初の女性大統領誕生ということで、まず「ガラスの天井」(glass ceiling)が崩れる。そして、インド人と黒人の混血(国勢調査では「2人種かそれ以上の混血」)ということで、アメリカ社会の多様化を象徴することになる。
 すでにオバマ元大統領により、黒人大統領は誕生している。今度は、黒人であるばかりではなく、インドというアジア系でもあるからだ。
 いまさら世界史を持ち出して語るのもどうかと思うが、ハリス大統領の誕生は画期的なことである。中世以降の世界史は、欧州の白人による他地域の有色人種の土地への侵入(植民地化)と、資産の収奪、奴隷化で成り立ってきたからだ。
 この構造はすでに壊れたが、いまだに続いていることがある。それは、欧州の白人を頂点とした人種ピラミットが、まだ人々の心の中に存在することだ。

人種ピラミッドでは混血は黒人側に押しやられる

 アメリカ(といっても、とくに東海岸)で暮らせば痛感するのが、人々が「肌の色」で区別され、それにより社会がピラミッド構造になっていることだ。
 ピラミッドの最上位にいるのは、言うまでもなく白い肌を持つ人々(White)で、その祖先はヨーロッパ人である(European descendants)。
 続いて、褐色の肌の人々(Hispanic or Latino)、赤色系の肌の人々(Native Americans)、そして、黄色い肌の人々(Yellow:Asians)、黒い肌の人々(Black:African Americans)となっている。
 ハリスはインド人の母親とジャマイカ出身の黒人の父親との間に生まれた混血だが、肌の色から言えば、「黒人」にされてしまう。つまり、最下層だ。
 もちろん、インド人との混血だから黒人とは言い難いが、トランプはそうは見ないだろう。
 これは、白人優位社会では、これまで混血をすべて黒人側に押しやり、そうすることで、白人の優位性を保ってきたからだ。黒人側に回された混血の人たちは、白人の血の割合の多い順に白人から優遇され、奴隷の反抗を抑えるのに利用されてきた。
 しかし、ハリスには白人の血は入っていない。

9月10の公開討論での直接対決が待たれる

 今回の大統領選挙でハリスが勝つと、トランプはまた「選挙が盗まれた」として、人々を扇動し、アメリカは分断されると予測する専門家がいる。
「United States of America」ではなく、「Divided States of America」になるというのだ。
 はたして、どうなるかはまだ2カ月半あるのでわからない。ただ、これまで1対1のディベートを拒否してきた2人が、9月10日に行われるテレビによる「公開討論」に出席する意向を示しているという。
 テレビによる討論会は、バイデンが撤退を決めざるを得なくなったように、選挙戦に大きな影響を持つ。ハリスとトランプはこれまで直接、論戦を交わしたことはない。
 ここで、トランプはハリスになにを言うか? また、ハリスはトランプの傍若無人の発言をどうやって封じ込めるか、本当に見ものである。(了)

【読者のみなさまへ】本コラムに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、
私のメールアドレスまでお寄せください→ junpay0801@gmail.com

 

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

→ニューヨークの最新ニュース一覧はこちら←

RELATED POST