ニューヨーク市の地下鉄が10月27日、開通120周年を迎えた。世界でも数少ない24時間運行。「眠らない街」の足を支え、時代とともにポップカルチャーの象徴にもなってきたニューヨーク市の地下鉄。実は川崎重工グループのアメリカ現地法人、Kawasaki Rail Car, Inc. (以下KRC)が納入していることを皆さんはご存じだろうか? KRC は同9日、ヨンカースにある同社工場で森美樹夫ニューヨーク総領事、ニューヨーク州都市交通局(MTA)のジャノ・リーバー最高経営責任者を招いて、アメリカでの車両納入通算5000両達成を祝う記念式典を開催した。KRC は現在、ニューヨーク市交通局(NYCT)向けに新型車両 R211 の納入を続けており、今後ますます市民の生活に貢献することが期待されている。社長の廣瀬雄介さんに話を聞いた。

Kawasaki Rail Car廣瀬社長、 MTAジャノ・リーバー最高経営責任者)
アメリカでの車両納入通算5000両達成、おめでとうございます。これまでの御社の歩みを教えてください。
われわれ Kawasaki Group のアメリカでの鉄道車両ビジネスは1979年にフィラデルフィアのサウスイーストペンシルベニア運輸公団(SEPTA)から Light Rail Vehicle (LRV: 軽快電車)を受注したのが始まりで、その後45年にわたりアメリカで事業を展開してきました。当時は日本で製造した車体を持ってきてアメリカで最終組立を行っていましたが、今ではネブラスカ州リンカーンと、ここヨンカースで分担して製造した Made in U.S.A の車両を納入しています。
オフィスをヨンカースに設立したのは?
立地が良かったことがいちばんですが、1984年にニューヨークとニュージャージーをつなぐ PATH(Port Authority Trans-Hudson)からお仕事をいただく際に、工場は「自由の女神から25マイル以内」との条件があったからです。われわれのお客様は州や市といった公共団体であり、車両の購入資金は公共資金(つまり私たちの税金)で賄われるため、ある一定以上の調達額をアメリカ製品で賄うことを定めた「Buy America」条項をはじめ、国内・地場産業振興や雇用促進を目的としたさまざまな条件が適用されることもこの事業の大きな特徴です。


日本とアメリカでは、地下鉄の構造も大きく異なるように思いますが?
その点は文化や考え方の違いを反映していますね。アメリカの場合では追突、衝突、脱線等の事故は起こり得ることを前提に、万が一事故が発生した場合にどれだけ多くの乗客乗員の命を守ることができるかという観点から、衝突安全性、つまり車両事故時の衝突エネルギーを吸収できような構造になっており非常に頑丈に造られています。日本から車両をご見学に来られた方からは「まるで戦車のようだ」と表現されることもありますね(笑)。車内の座席が日本のようにふわふわの布製ではなく、強化プラスチックである FRP のベンチシートを採用しているのも日本とアメリカの文化・民度の違いから来ていますが、結果的にアメリカの車両は掃除もしやすくなっています(笑)。
今年2月から NYCT には車両と車両の間を行き来できる「オープンギャングウェイ」(Open Gangway)=写真◎=と呼ばれる貫通路のある車両も導入されています。日本では当たり前の光景ですが、これまでニューヨーカーにはなじみがなかったオープンギャングウェイ車は乗客から好評を得ているとうかがっています。最近「地下鉄サーフィン」が問題になっていますが、オープンギャングウェイ車は構造上、車両の屋根には登れないようになっているので、その対策にも効果を発揮するかもしれません。ニューヨークの地下鉄では、基本的に車両と車両の間の移動は禁止されていますので、皆さんもお気をつけください。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
NYCT に弊社の車両を導入いただいてから、ここ数十年の間に車両の運行信頼性(MDBF=Mean Distance Between Failures)が大幅に向上していることから、MTA からは弊社製車両は信頼性が非常に高いと評価を頂いており、弊社の MTA でのシェアは40%近くにまで増えています。まずはその信頼に応えるためにも、新型車両 R211 を今後も確実に納入を続けていくことが最重要課題だと考えています。また R211 が増備されることでニューヨークの皆さんにも地下鉄移動をより快適なものにしていただければと願っています。
弊社では、NYCTだけでなく、ロングアイランド鉄道(LIRR)やメトロノース鉄道(MNR)にも多くの車両を納入していますし、PATHトレインを走る車両は100%弊社製です。また、ワシントンD.C.のメトロ(WMATA)の過半数の車両は弊社製です。
私自身 “鉄オタ” で、週末に少しでも時間があれば NYCT や LIRR を走る自社製の車両へ乗りに行き、ニューヨーカーがどのような思いで当社製の車両に乗っているのか乗客の表情を観察しています。観光名所だけでなく、当社製のニューヨークの地下鉄や電車、さらには興味深いエピソードに彩られた駅など、ニューヨークの鉄道の面白さをぜひ皆さんに知っていただけると、うれしいです。
(文:武田秀俊)

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