2025.01.14 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

英国もついに容認、法制化に!「安楽死」を議論さえしない日本の欺瞞(完)

延命治療で儲けている医師会は反対の立場

 日本の国民皆保険制度は素晴らしい制度だが、終末期医療に関しては、弊害が大きすぎる。高額療養費制度により限度額が決められているので、実費にすれば高額極まりない医療でも、家族側は医療側に提供を求める。
 患者の年金額が高額療養費を超えれば、生かしておくだけで、その差額が家族の収入になる。
 一方、医療側は、いくらでも高額な医療を施せる。人工透析などの診療報酬は高額だが、わずかな患者負担以外はすべて国が払ってくれる。つまり、取りはぐれがないので、医療側はあらゆる延命治療を勧める。
 現在、国の医療費は12兆3532億円(2024年度国家予算)で、国家予算の約1割を占めている。そのうち、終末期の医療費が占める割合は1割弱、約1兆円と推計されている。これが、ほぼ回復が不可能で死を待つばかりの人々に注ぎ込まれている。
 医師会は、安楽死には反対の立場を取っている。医者はどんな場合でも命を救うのが使命。「積極的な安楽死」については、倫理的に許されないとしている。

一部の生活保護受給者も病院もワル

 最近は、生活保護者に対する風当たりが強くなった。その一つに医療費がタダということがある。そのため、ちょっとしたことでも病院に行き、クスリを手に入れるとそれを転売して稼いでいる生活保護者がいるという。
 しかし、一部の生活保護受給者だけがワルではない。病院側にも生活保護者を食いものにして稼いでいる「ブラック病院」がある。病気でもない生活保護者を診察して、架空請求を繰り返す病院。業界で「ぐるぐる病院」と呼ばれる生活保護受給者の入院患者を「たらい回し」をして儲けている病院がある。
 ぐるぐる病院は、終末期の生活保護者に思い切り濃い延命治療を施し、それで稼いだうえに、入院が長引くと診療報酬が減額されるので、患者を2週間ごとに退院させ次の病院に移す。すると入院日数はリセットされるので、また儲けられるという仕組みだ。
 生活保護受給者が多い大阪では、複数の病院が組んでこれをやっている例がある。
 ぐるぐる病院以上にブラックな病院もある。生活保護者の受診者にウソをついて、必要のない手術をしてしまう病院だ。ガンでもないのに、ガンの摘出手術をして摘発された病院が過去にある。

ガイドラインがないため医者が殺人罪に!

 日本の濃厚な延命治療が続く最後の理由は、法律の壁である。もし、医者が患者の死にたいという希望をかなえたら、それが尊厳死であっても「同意殺人罪」「自殺幇助罪」(刑法202条)になることだ。
 延命措置をやめるだけでも、本人の意思の確認が明確でなければ、罪に問われかねない。
 2009年に有罪判決が確定した川崎協同病院の「筋弛緩剤事件」というのがある。医者が准看護師に指示して、気管支喘息発作で入院中の患者の気管内チューブを抜き、筋弛緩剤を投与して窒息死させたという事件である。
 ただし、この有罪判決には、異例のコメントが付いた。「尊厳死の法的規範がないなか、事後的に非難するのは酷だ」「尊厳死の問題は、国民が合意する法律制定やガイドライン策定が必要だ」の2点。要するに、安楽死、尊厳死に関してガイドラインがないのは問題ではないかと、裁判所が世間に訴えたのである。
 しかし、今日まで、政治は動いていない。
 2012年、超党派の議員連盟が「尊厳死法案」を公表したが、反対の声が上がり法案提出には至らなかった。
 超高齢化で、毎年約160万人が死んでいくいま、日本も早急に英国並みの「安楽死法案」を制定すべきではなかろうか。(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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