対中強硬姿勢といっても安心はできない
このトランプの対中強硬姿勢に対して、日本では歓迎する向きが多い。中国の脅威から逃れられ、安全でいられるとトランプ政権をありがたがる。
しかし、その見方は甘いと言うほかない。覇権主義、帝国主義においては、国際協調も同盟もほぼ意味をなさないからだ。
つまり、トランプ政権は、アメリカの国益を最優先して中国を敵視するだけで、日本のような同盟国との関係強化を図るわけではない。日本防衛がアメリカの利益にならないと判断すれば、同盟を切ることもありえる。
万が一でも中国がアメリカの覇権を侵さないという取引が成立すれば、日本は見捨てられるかもしれないのだ。
国防長官にヘグセスをという呆れた人事
そこで、問題になるのは、トランプ政権の対中戦略、それと並行した対日戦略を誰が決めて、それを主導するかである。もちろん、それは言うまでもなく、国務長官と国防長官で、国務長官はマルコ・ルビオ、国防長官はピート・ヘグセスだが、難点がある。
ルビオ国務長官はこれまで、中国の台頭に警鐘を鳴らし続けてきており、上院外交委員会のヒアリングでは、中国について「アメリカが直面したなかでもっとも強力で危険な敵国だ」と述べているので、問題はない。
しかし、ヘグセス国防長官は、FOXニュースの元キャスターであり、過去に女性への性的暴行の嫌疑をかけられた人物であるうえ、軍事戦略に関してはまったくの無知、経験なしである。しかも、対中戦略、台湾防衛に関して、上院のヒアリングではなにも答えられなかった。
そのため、上院でのヘグセス承認に対して、ミッチ・マコネル元上院総務を含め共和党議員3人が反対に回り、副大統領のJDヴァンスが賛成票を投じてやっと決まるという有様だった。そこで、国防省においてはナンバーツー、ナンバースリーの人物が鍵を握ることになった。
キーマンはエルブリッジ・コルビー国防次官
国防省のナンバーツー、ナンバースリーの人物とは、国防副長官となったプライベートエクイティー投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントの共同創業者でビリオネアのスティーブン・ファインバーグと、国防次官(政策担当)となった第1次トランプ政権で国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビーである。
この2人のうち、決定的に重要なのは、言うまでもなくコルビー国防次官である。
彼は対中強硬派(ドラゴンスレイヤー)として知られた軍事戦略家で、2018年の国防戦略(NDS:National Defense Strategyの策定では、主導的役割を務めている。
このNDSは、中国の台頭がもたらす戦略的課題について強調し、それに即した防衛政策を提示したものだった。
また、コルビーは対中戦略の一環として、日本も主要な役割を担うべきとし、防衛費を少なくともGDP比で3%支払うべきだと述べている。第1次トランプ政権のとき、トランプが日本に対して国防費の増額を要求したのは、コルビーの国防戦略を踏まえてのことだった。
こんなコルビーが、第2次トランプ政権で国防省の政策立案の大役を務めることになったのだから、日本の国防政策、ひいては政策全般も彼によって動かされることになる。
では、コルビーとはどんな人物なのか?
6歳から7年間日本で過ごした国防のプロ
エルブリッジ・コルビーは1979年12月30日生まれの45歳。祖父は、元CIA長官のウィリアム・コルビーで、父はカーライル・グループ・シニアアドバイザーのジョナサン・コルビー。まさに、生粋のワシントンエリートである。
2002年にハーバードを卒業し、その後、2009年にイェールのロースクールでJDを修得。その間、国防省でキャリアをスタートさせ、イラク連合国暫定当局(Coalition Provisional Authority)、国家情報長官室(Office of the Director of National Intelligence)などに勤務。2010年からはNPOの海軍戦略分析センター(CAN:Center for Naval Analyses)、2014年からは新アメリカ安全保障センター(CNAS:The Center for a New American Security)の研究員を務めた。
その後、前記したように、トランプ一次政権では、国防副次官補としてNDSの策定に携わった。2018年、政権を離れた後は、CNASに戻って防衛プログラムディレクターとなり、外交問題評議会(CFR:Council on Foreign Relations)と戦略国際問題研究所(CSIS:Center for Strategic and International Studiesの有力メンバーとして活動してきた。
2021年に刊行した著書『Strategy of Denial: American Defense in an Age of Great Power Conflict』は、はウォール・ストリート・ジャーナルの2021年のトップ10に選ばれた。
じつは、彼は、1986年から7年間、6歳から13歳の間、日本で過ごしている。当時、父のジョナサンがファースト・ボストンの東京事務所長を務めていたからで、この間、西町インターやASIJ(アメリカンスクール・イン・ジャパン)に通ったので、日本に対しての理解は深い。また、日本人の友人もいる。
この続きは2月27日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
RECOMMENDED
-
パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-
NY・トライベッカのステーキハウスが「世界で最も美しいレストラン」の一つに
-
トレジョの限定「イチゴ」スナック7選、手軽なスナックからパンケーキミックスまで
-
「人間の採用をやめろ」とあるアメリカのブランド広告がインターネットで大反響
-
実はほとんどが無料、NYの「屋外で映画を楽しめるスポット」5選
-
クイーンズにあるもう一つの「MoMA」、恒例の夏フェスが開幕!世界最先端の音楽とアートが交差する6日間
-
『ちょっと得するNY20年主婦のつぶやき』(7)毎日使う「まな板」の選び方と注意ポイント
-
ゼリー飲料「Chargel」フォトコンテスト開催
-
【今週末のイベント】「グランドセントラル駅」で無料ヨガ!手ぶらOKで飛び入り参加も可能
-
世界最強パスポートはどの国? 日本2位、アメリカは9位に