フィリピン出身アーティストの共同制作作品(上)
石川の作品に惹きつけられる傍ら、沖縄同様にアメリカ軍の駐留の歴史を持つ、あるいは現在もその影響下にあるフィリピンをルーツとする2つの共同制作作品に注目した。一つはホセ・マセダ(1917–2004)の楽曲を使用しいた恩田晃(1967年奈良生まれ、ニューヨーク在住)のインスタレーション。彼らの作品は、フィリピンの歴史や地政学的位置がその文化やコミュニティに与えた関係性を五感に訴えてきた。

Installation view of Whitney Biennial 2026 (Whitney Museum of American Art, March 8 – August 23, 2026) Jose Maceda and Aki Onda, Ugnaya, 1874/2026.
Photograph by Darian DiCanno/BFA. ©BFA2026; Courtesy Aki Onda, UP Center for Ethonomusicology,
Asian Cultural Council, and Rockefeller Archive Center
フィリピンは7,641の島々から成り(国家地図資源情報局による公式数)、11の主な島が総陸地面積の95%を占める。約2000の島に人が居住し、南北約1,850km、東西約1,130kmにわたって広がっている。ヨーロッパ人による同国植民地化の歴史は、ポルトガル人フェルディナンド・マゼランがスペインの資金援助を受けて1521年に参着したことに始まり、その後333年間、スペインの統治下に置かれた。フィリピンという名称は1542年に、スペイン帝国皇太子フェリペ(のちの国王フェリペ2世)の名から、スペイン人の征服者ルイ・ロペス・デ・ビリャロボスによってイスラス・フィリピナス諸島(フェリペの島々)と名づけられたことに由来する。もともとフィリピンは、アジア各地からの様々な民族の移住によって形成されていたが、諸島間の接触(交流・移動)が少なく、中央集権的な政府は存在していなかった。1571年スペインによってマニラ市が建設され、太平洋横断貿易における西ヨーロッパ勢力の中心地となった。スペイン植民地政府の文化的目標は、フィリピン人の完全なキリスト教化とヒスパニック化であり、土着宗教は抑圧された。が、スペイン以前の文化が完全に消滅したわけではなかった。
1890年代になると、アメリカでは「マニフェスト・デスティニー(明白な天命)」という思想が広まり、欧州諸国に対抗するために海外植民地を持つ海軍大国になるべきだと考えられた。1898年キューバの独立運動をきっかけに始まった米西戦争(約4か月間)時、海軍次官で拡張主義者だったセオドア・ルーズベルトがマニラ湾で老朽化したスペイン太平洋艦隊を壊滅させた。その結果、パリ条約(1898年)によりスペインはフィリピン全土の主権を放棄し、アメリカに譲渡した。こうして48年間にわたるアメリカの統治が始まった。
第二次世界大戦中は、日本がフィリピンを占領した。1946年にフィリピンはアメリカから独立したが、アメリカは23の軍事施設を99年間租借した。これらの基地は朝鮮戦争(1950–53)およびベトナム戦争(1955–75)で重要な役割を果たした。アメリカは親米的な権威主義政権であるラモン・マグサイサイ(1953–57)やフェルディナンド・マルコス(1965–86)を支持した。
恩田晃/ホセ・マセダによる『Ugnayan(ウグナヤン)』は、タガログ語で「つながり」や「結びつき」を意味する。20台のラジオから同時に流れるホセ・マセダの楽曲が空間に広がるインスタレーションで、マセダの1974年の同名作品を恩田が再構成した。初演時にはマニラ中のラジオ局が、各楽器の録音パートを同時に放送したという。マセダはフランスのエコール・ノルマル音楽院でピアノ、作曲理論、楽曲分析を学び、コロンビア大学で音楽学、ノースウェスタン大学で人類学を学び、1963年にはUCLAで民族音楽学の博士号を取得した。2007年には、1953〜2003年にかけてマセダが記録したフィリピンおよび東南アジアの伝統音楽を含む「ホセ・マセダ・コレクション」がユネスコの「世界の記憶」に登録された。『Ugnayan』は、先住民の音楽や楽器への関心を喚起することで、フィリピン文化の研究と再評価を象徴している。展示には、フィリピン文化センターが発行した新聞形式資料の複製も含まれており、中央にはこのプロジェクトの発案者、イメルダ・マルコス大統領夫人の写真が据えられている。

Published for the Cultural Center of the Philippines (CCP)
by Ugnaya Secretariat; 82nd Whitney Biennial
サウンド・アーティストの恩田晃は、30年以上にわたりウォークマンを用いたフィールド録音による「サウンド・ダイアリー」で知られる。彼の作品はニューヨークのThe KitchenやPS1、ルーヴル美術館、ドクメンタ14(ドイツおよびギリシャ)、韓国のナムジュン・パイク・アートセンター、日本の原美術館などで発表されている。
文/中里 スミ(なかざと・すみ)
アクセサリー・アーティスト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴39年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。
RECOMMENDED
-

客室乗務員が教える「本当に快適な座席」とは? プロが選ぶベストシートの理由
-

NYの「1日の生活費」が桁違い、普通に過ごして7万円…ローカル住人が検証
-

ベテラン客室乗務員が教える「機内での迷惑行為」、食事サービス中のヘッドホンにも注意?
-

パスポートは必ず手元に、飛行機の旅で「意外と多い落とし穴」をチェック
-

日本帰省マストバイ!NY在住者が選んだ「食品土産まとめ」、ご当地&調味料が人気
-

機内配布のブランケットは不衛生かも…キレイなものとの「見分け方」は? 客室乗務員はマイ毛布持参をおすすめ
-

白づくめの4000人がNYに集結、世界を席巻する「謎のピクニック」を知ってる?
-

長距離フライト、いつトイレに行くのがベスト? 客室乗務員がすすめる最適なタイミング
-

機内Wi-Fiが最も速い航空会社はどこ? 1位は「ハワイアン航空」、JALとANAは?
-

「安い日本」はもう終わり? 外国人観光客に迫る値上げラッシュ、テーマパークや富士山まで








