2018年8月8日 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

連載123 山田順の「週刊:未来地図」トランプが破壊する世界秩序(2)(下) どうなる? 米中貿易戦争の行方と日本への影響

経済規模と産業構造から中国は圧倒的に不利

 ここでアメリカ経済と中国経済の規模をGDPで比べると、アメリカと中国にはまだ大きな力の開きがある。2017年のIMFワールドエコノミック・アウトルックによると、第1位:アメリカ19兆3906億ドル、第2位:中国12兆146億ドルとなっている。つまり、いくら成長に次ぐ成長を遂げてきたとはいえ、中国経済はまだアメリカ経済の3分の2程度なのである。これでは、長期戦になればなるほど不利なのは言うまでもない。ちなみに、日本は第3位だが、487兆2140億ドルで中国の約3分の1に過ぎない。その差は開く一方だ。
 経済の規模と産業構造から、今回の関税による報復合戦を考えれば、お互いにトータル2000億ドル程度であれば、その影響度はアメリカより中国のほうが大きいのは間違いない。
 各種の試算を見ると、アメリカにとってのGDP押し下げ効果はおよそ0.3~0.4%にとどまっている。トランプ減税の効果と、今年のアメリカ経済が年率3%で成長すると予想されているからだ。
 これに対して中国経済は、今年も6%の成長が見込まれるのに、GDPは少なくとも1%は押し下げられるとみられている。中国経済は輸出依存型経済であり、その貿易依存度は4割を超えているからだ。
 ただし、前回も書いたように、この戦争を貿易戦争とし、経済の面だけで捉えてはいけない。覇権戦争である以上、その国の文化・文明が持っている力、また、社会システムの民主度、自由度、法の支配などを重視しなければならない。
 そうすると、今後いくら中国が経済的に大きくなりアメリカと同程度になろうとも、アメリカを超えることはできない。覇権戦争では中国に勝ち目はないのだ。
トランプというトンデモ大統領が出現して、アメリカの威信は落ちている。しかし、それでもなお、まだ世界の多くの国は中国側についてはいない。

習近平は鄧小平の教えを読み違えた

 超党派の議員たちがZTEの制裁解除に怒ったように、アメリカはいまや国全体が対中強硬路線に転じている。つまり、トランプの気まぐれが起きない限り、アメリカは中国を叩き続けるだろう。
 中国が対抗関税をかける農産物には、補助金を出すことが検討されている。となると、中国の対抗関税は効き目がなくなり、次の手段としては、人民元を安くして輸出を維持することになるだろう。しかし、そうすると中国企業のドル債務返済が厳しくなる。
 こうなると、中国経済は金融危機も含めて、この先、大変なことになっていくだろう。今回の米中貿易戦争は短期的にも中国が敗戦する可能性が高い。しかしそれでもなお、北京は覇権挑戦をやめないに違いない。習近平には“終身皇帝”としてのメンツがあるからだ。「一帯一路」「中国製造2025」を、習近平が撤回するとは考えられない。
  ここで想起されるのは、かつて鄧小平が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい)」である。1989年の天安門事件により、中国は国際社会から非難され、さらに冷戦の終結で社会主義陣営を失って孤立した。このとき、鄧小平は、この言葉を使って指導層に訴えたのだった。
 「韜光養晦」は、日本語で言う「能ある鷹は爪を隠せ」に近い。鄧小平は、「冷静に観察し、足元を固め、落ちついて対処し、能力を隠し、ボロを出さず、けっして先頭に立ってはならない」と述べたのだ。この方針のもと、中国は社会主義大国を標榜しても、国際社会の先頭を切るようなことはしなかった。鄧小平は「実力が本当につくまではアメリカに追従して、実力がついたそのときに中国は出るべきだ」と諭したのである。
 とすると、習近平はことを急ぎ過ぎた感がある。覇権挑戦宣言は、時期尚早だったといえるだろう。
(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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