Vol.49 映画監督 沖田修一さん 女優 前田敦子さん

ジャパン・ソサエティーで開催中の北米最大の映画祭、第10回「ジャパン・カッツ」でオープニングを飾った作品「モヒカン故郷に帰る」。今、日本映画界で最も注目の監督・沖田修一と、松田龍平演じる主人公・永吉の恋人役で沖田作品初出演を果たした女優・前田敦子の独占インタビューを公開!

photo: Mai Komboo

photo: Mai Komboo

Profile:沖田修一(1977年愛知県生まれ)
2001年、日本大学藝術学部卒業。「南極料理人」(09)で商業映画デビューを果たし、「キツツキと雨」(12)では、第24回東京国際映画祭で審査員特別賞などを、また「横道世之介」(13)では、第56回ブルーリボン作品賞、主演男優賞(高良健吾)のほか、国内外の映画賞を受賞した。

Profile:前田敦子(1991年千葉県生まれ)
AKB48初代メンバーの“絶対的エース”として日本を代表するトップアイドルグループを牽引。2012年に卒業後は、女優、歌手として活躍。主な出演作に、「もらとりあむタマ子」(13/山下敦弘監督)、「さよなら歌舞伎町」(15/廣木隆一監督)、「イニシエーション・ラブ」(15/堤幸彦監督)などがある。

興奮の出会いから、 生まれた縁

―作品がニューヨークで上映されると決まり、どのようなお気持ちでしたか

沖田(以下、「沖」):ニューヨークで自分の作品が上映されるのは初めてなので、どんなことになっているんだろう? 反応を知りたいなと思いました。
前田(以下、「前」):この映画祭で上映していただけるというのはもちろんうれしいですし、ニューヨークの皆さんにお会いできる機会もなかなかないので、本当にありがたいです。

―超大作に慣れている米国の人たちが、ゆったりしたテンポの日本映画をどう見るのかは、確かに気になりますね。

前:アメコミと比較とか?
沖:そうですね~。(今春公開された)「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」に人気が勝てれば(笑)。

―オープニング作品に選ばれた上に、チケットもほぼ即日完売するほどの人気ぶりだと伺っていますよ。

前:(控えめに)やったー!
沖:もっと喜んで!

―お2人とも、チームワークが良いですね。監督が、女優・前田敦子を起用した最大の理由は?

沖:まず、由佳という役どころがあって、誰にしようかと考えていたときに前田さんのイメージが沸きました。もちろん、出演するテレビや映画を見ていたこともあったし、改めて前田さんを当てはめて台本を読んでみたら、ものすごくおもしろかったんです。

―由佳の、チャーミングだけれども、ちょっとがさつなキャラクターは、われわれがメディアを通して知っている前田さんのイメージとは似つかないようなところもありましたが。

沖:(元トップアイドルという)イメージとは関係なく、単純に由佳に似合いそうだなと思いましたね。
前:私と実際に話したりすると、多分「アイドルって何だろう?」と思っちゃうはずです(笑)。
沖:僕は前田さんが深夜のコント番組に出ているのを見て、おもしろいなと思った印象をずっと持っていたんです。

―既に由佳が持つ一面を知っていたのですね。前田さんは、沖田監督の作品はよくご覧になっていたのですか?

前:監督の作品との出会いは飛行機の中で、「キツツキと雨」を見たのが最初です。見たすぐ後に、秋元康先生に報告したのを覚えています。「すっごくおもしろい映画を見つけました!」って。そうしたら秋元先生も、「沖田監督はすごい監督だ」って、そこで話が盛り上がって。その後監督と何度かお会いする機会があって、好きなものは好きと伝えようと思って、この作品が好きですと言い続けていたら、こういう機会に恵まれました。

―まさにご縁ですね。

前:そうですね、その出会いには本当に興奮しました。

―既に話題の作品に多数出演してきた前田さん。女優として着実に地位を築いていますが、ご自身ではどう捉えていますか?

前:まだよく分かっていないですね。
沖:そうなの(笑)?

―考えるよりまず飛び込むわけですね。

前:ただ、お芝居や映画を見るのは好きなことなので、そういうお仕事に携われている幸せは日々噛みしめています。その中で自分がどういう立ち位置なのかは、まだよく分かっていないですね。

―今回の撮影はいかがでしたか?

前:(広島の離島で)毎朝送迎バスに乗って、撮影に行って。撮影の1カ月間ずっとほのぼのしていましたね。(広島の名産品である)柑橘類が大好きになりましたし、なんて良い雰囲気だったんだろうという思い出しかないです。

―共演者の皆さんも、ずっとそのような感じでしたか?

前:誰かが怒っている場面なんて一度も見なかったです。

―監督のまとめ方もすばらしかったみたいですね。

沖:僕が一番ピリピリしてたかも…。
前:そんなことないですよ(笑)。

―島の雰囲気もそうですが、ブラスバンド部の生徒たちも自然体でイイ味を出していましたね。

沖:撮影地に一番近い島の中学校のブラスバンド部の子たち(素人)が大部分を占めていました。ああいう子たちは本当に、カメラに映れば良くなるというのは分かっていましたからね。

―楽器の指導はあえてせず?

沖:音楽プロデューサーが入ると、ちょっと上手く聞こえてしまうことが多いんですけど、あれはリアルなんで、“良い感じ”に下手なんですよ。

―そこは否定しません(笑)。

沖:音楽プロデューサーを逆に混乱させるくらいでした。

―そんな素朴な土地と人々の中で浮きまくる永吉の、「モヒカンを絶対切らない」というポリシーに対して、監督自身のポリシーは?

沖:…(考えた末)ないかもしれない。
前:柔軟な人だと思います。
沖:そうかな(笑)。
前:いい人、です。
沖:前田さんのお墨付きです(笑)。

―映画では、離れて暮らし、知らぬ間に老いていく親、というのがコミカルな中にもリアルに表現されていますね。多忙なお2人ですが、次にご両親に会ったときには、何をしてあげたいですか?

沖:僕は忙しくても忙しくなくてもあまり会わないですね。そういうもんかな、と思って。結局誰かが病気したとか、そういうことがないと、なかなか。会っても、「大丈夫?」とか簡単な言葉を掛けるくらいしかできないもんだよね。

―何かが起こって初めて気付くものですよね。この作品は、離れて暮らす家族を気に掛けようと思わせてくれる作品だと思います。

沖:もしかしたら、普通はもっと不義理なのかもしれないな。でも永吉が最後、末期がんの父親に優しくしてあげて、側にいてくれて。映画の中ではそういうことがあってもいいんじゃないかな、と思って。僕も何かしないとな。永吉のようになりたいですね(笑)。

―前田さんはいかがですか?

前:私は実家の目と鼻の先に住んでいるので、しょっちゅう親と一緒にいますし、本当にマザコンですね。今は親にネコの世話を頼んでいたりとか、頼みっぱなしなので、今度は親をご飯に連れて行ってあげたいと思います。

photo: Mai Komboo

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