ミッドタウンの東42丁目219~235番地にある米製薬会社大手ファイザーの旧グローバル本社ビルの再開発工事(ビルを統合し、単一の住宅複合施設とする計画)で7月7日、大規模な構造上の問題が発生、8日時点で建設工事は一時的に中断されている。

7日、タワーの21階で構造用柱が座屈し、数階分がたわむ事態が発生。この事故を受け、近隣ビルの避難、グランド・セントラル・ターミナル周辺の道路封鎖および集中的な緊急対応が行われた。負傷者の報告はない。8日までにニューヨーク市は、建物が一時的な鉄骨支保工事によって安定化されたと発表。監視の結果、それ以上の動きは見られなかった。しかし、建設を再開するには、市建築局(DOB)による徹底的な構造審査が完了しなければならない。
再開発工事の概要
ファイザーの旧グローバル本社ビルの再開発工事は、賃貸コンドミニアム 1602戸(そのうち低所得者向け住宅が25%=約400戸)、10万平方フィート超の共同施設、1階の店舗、旧ビルの高層化などを含むもので、完成時には、ニューヨーク市および全米で最大規模のオフィスから住宅への転用プロジェクトとなる見込みだった。
今後の見通し
複数の報道によると、技術専門家が構造上の不具合の原因を特定するまでは、このプロジェクトの長期的な将来は不透明なままだ。今後考えられる対応策としては、影響を受けた構造物の補修や補強、プロジェクトの一部の再設計、あるいは一部の構造工学の専門家が指摘するように、補修が不可能と判断された場合には損傷した部分を部分的に解体して再建することになる。どのプロセスを選択するかは、原因が特定されてからとなる。現時点では開発業者も市当局も計画全体の断念を示唆してないが、技術面、規制面、資金面においてさらなる精査に直面している。
増階はよくあることなのか?
既存の建物の上部に階を増築すること(しばしば「垂直拡張」や「オーバービルド」と呼ばれる)は、ごく一般的に行われている。ニューヨークのように人口密度が高く、土地が限られている都市ではよく見られる事例だ。しかしこれは再開発の中でも技術的に最も困難な形態の一つでもある。中でも高層ビルの増築は、元の構造が追加の重量や風荷重を考慮して設計されていない可能性があるため、構造設計が著しく複雑になる。
一方で、工事中に構造的な問題が発生するケースは極めてまれだ。今回の旧ファイザー本社ビルのように、構造異常が確認された段階で避難・補強が行われ、崩壊を免れた事例は非常に珍しい。
NYで起きた主な崩壊事故
ニューヨーク市でも改修工事中の事故は起きているが、今回のケースと同じような高層ビルの垂直増築中の事故は極めて少ない。
2023年にはローワーマンハッタンの立体駐車場が崩落し1人が死亡。調査では、耐力壁の一部を適切な補強なしに撤去したことが原因とされた。また同年、ブロンクスの集合住宅では、耐力柱を誤って撤去対象と判断したことから建物の一部が崩落したが、事前避難により死者は出なかった。
海外で起きた主な崩壊事故
過去には、増築や構造変更が関係した重大事故も発生している。1995年の韓国・三豊百貨店崩壊事故※では、設計変更により屋上階を増築したことなどが原因となり、建物が倒壊。502人が死亡する世界最悪の建物崩壊事故となった。また、1993年のタイのロイヤルプラザホテルでは、建物の増築や荷重増加が影響したとされる崩壊事故で137人が死亡。1973年にはバージニア州のスカイラインプラザ建設現場で上層階の施工中に一部が崩壊し、作業員14人が死亡。いずれも、工事中の荷重や構造の変化が事故の一因となった代表例として知られている。
※急速な経済成長の歪みを象徴する国家的トラウマとして、「応答せよ1994」「ムーブ・トゥ・ヘブン:私は遺品整理士です」「花様年華〜君といた日々〜」など、複数の韓国ドラマでこの崩壊事故が重要な背景やモチーフとして描かれている。
大規模リノベなどの安全基準に影響
今回の旧ファイザー本社ビルでは、作業員が柱の座屈や梁の変形を早期に発見し、直ちに避難と緊急補強が実施されたため、幸いにも人的被害は発生しなかった。現時点では、増築部分の荷重が補強前の柱に想定以上の負荷を与えた可能性も指摘されているが、正式な原因はニューヨーク市の調査結果を待つ必要がある。
世界では垂直増築やオフィスから住宅への転用は数多く成功しており、今回のような事例は極めて異例。今回の事故は今後の大規模リノベーションやコンバージョン工事の安全基準を考える上でも重要な事例として注目されている。

















