連載541 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(1) ここまで物価が安いという現実を直視せよ!(完)

連載541 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(1) ここまで物価が安いという現実を直視せよ!(完)

高級品価格では日本を超えた中国

 ここまで、アメリカとアジア諸国を中心に物価を比較してきたが、日本人がいちばん気になるのは、やはり中国だろう。いまや、中国の脅威に日夜脅かされるようになった日本人にとって、中国よりも後進国になってしまうことは受け入れがたいことだ。

 しかし、残念ながら、物価の面でも、中国は日本を追い抜こうとしている。日常品や庶民食はまだ日本の7~8割ほどだが、高級品や高級レストラン、高級ホテルとなると、すでに日本より高くなっている。

 とりあえず、日常食をマックで比較すると、北京の「ビッグマックセット」は36元(約560円)である。これに対し日本では690円で、日本のほうが高い。また、中国で700店以上店舗展開している日本のラーメンチェーン「味千ラーメン」で比較するすると、中国は40元(約660円)で日本は600円だから、もうほとんど同価格だ。ただ、日本のラーメンには高級感があり、北京庶民が普通に食べる麺は、16元~25元(約250~410円)といったところだ。

 日本より中国のほうが安いのは、公共交通とスマホ料金だ。地下鉄運賃は、北京や上海が初乗り3元(約50円)、タクシーは都市によって違うが、初乗り約10~14元(約160~230円)。スマホ料金は、月額60元(約1000円)で、日本の平均4000~5000円に比べると激安である。ただ、中国では端末は別に購入する。

 このように日本より安いものがある反面、嗜好品、ブランド品となると日本より高い。「ヴィトン」や「グッチ」「シャネル」などの高級ブランドは日本よりも2、3割高めで、中国で買う日本人観光客は皆無だ。また、日本ブランドの「ユニクロ」や「無印良品」なども同じく2、3割高めである。  なんといっても中国で高いのは、不動産価格で、北京や上海では億ションはザラで、東京の不動産価格をしのいでいる。そのため、中国の富裕層は東京のタワマンを積極的に購入している。

 私の住む横浜でも、みなとみらい地区に次々建った億ションは、中国人が多く買っている。

物価より深刻な1人当たりのGDPの安さ

 こうして見てくると、日本の物価の安さはすでに後進国並みになってしまったのがわかる。食(日常食から高級レストランまで)や衣料(とくにファストファッション)は、先進国、中進国を問わず、日本がいちばん安い。新興国をのぞいた海外に、ワンコインランチ(500円)などない。

 しかし、モノとサービスの安さは、生活面からは歓迎できる。ただ、歓迎できないうえに深刻な問題と言えるのが、1人当たりのGDP、給料の安さだ。

 ここ数年、日本の1人当たりのGDPはまったく伸びておらず、ドルで見ると4万ドルをやや上回る程度である。アメリカはすでに6万ドルを超えており、はるか上の存在で、日本が抜き返すことはもうありえない。

 深刻なのは、韓国に追い抜かされつつあることだ。名目GDPではまだ差があるが、IMF発表の購買力平価では、2020年では日本が4万6827ドル、韓国が4万6452ドルであり、ほとんど差がなくなっている。もちろん、韓国だけではない。日本はすでにイタリアに抜かれており、スペインにも抜かれそうである。

4人に1人しかパスポートを持っていない

 ところが、こうした現実に多くの日本人が気づいていない。とくに、日本の物価の安さに対する認識度は低い。いまだに、海外旅行に行くと言うと、高級ブランドのお土産を頼んでくる人間がいる。日本の旗艦店で買ったほうが安いと言っても信じないのだ。

 いまの日本人は2つに分断されている。海外を知って日本の立ち位置を認識している人間と、海外を知らずに日本はすごい国だと信じ込んでいる人間だ。

 外務省がまとめた2019年(1~12月)の「旅券統計」によると、日本人のパスポート保有率は、わずか約23.7%にすぎない。日本人は4人に1人しかパスポートを持っていないのである。

 これでは、日本の物価が安くなっていることに気づくわけがない。このままの状況が続くと、コロナ禍が収束すれば、また多くの外国人観光客がやって来るだろう。しかし、その反面で、日本人は海外旅行に行くことすらできなくなるだろう。

 *今回は、ここで終わります。続きは「安価地獄」に陥った日本(2)で配信します。 (了)

この続きは5月25日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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