2025.02.13 COLUMN 山田順の「週刊 未来地図」

山田順の「週刊 未来地図」トランプ獲得発言で注目のグリーンランド。しかし、氷が溶けたら危ないのはアメリカだ!(下)

IPCCの最新報告書が警告する海面上昇

 さて、現在のグリーンランドを知るためにもっとも重要なのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の「第6次評価報告書」(AR6:Sixth Assessment Report)である。「AR6」は、2023年3月20日に公開された。 
 「AR6」の最大のポイントは、人間の活動が地球温暖化を引き起こしていると断定したことで、現在のGHG(温室効果ガス)の削減状況では、気温上昇を1.5℃または2.0℃に抑えるという目標(パリ協定で合意)は達成できないと強く警告したことだ。
 「AR6」は3つの作業部会(ワーキンググループ)のレポートから成っているが、第1作業部会(WG1)のレポートは、将来の海面水位変化について予測している。海面上昇は氷河や氷床が溶けたりすることで起こるが、気温上昇のスピードによって変化する。
 そのため、ここではもっとも高いシナリオから、もっとも低いシナリオまでを段階的に5段階で示している。

最悪シナリオの場合、海面上昇は1.7メートルに

 もっとも低い、温暖化対策がうまくいって2050年カーボンニュートラルが達成された場合のシナリオ(SSP1-1.9シナリオ)では、海面上昇は50センチ以下に抑えられる。
 その上の段階、2100年までに気温上昇が2℃より低く抑えられた場合の中位シナリオ(SSP1-2.6シナリオ)では、海面上昇は32〜62センチとなる。
 しかし、温暖化対策に失敗して、いまのままのGHG排出が続いた場合のシナリオ(SSP5-8.5シナリオ)だと、63センチ~1.01メートルになると予測されている。ただし、たとえば気温上昇が予測以上で南極大陸の氷床の崩壊が始まったりすれば、1.7メートル程度の上昇も考えられるとしている。
 海面上昇は恐ろしい面もあるが、毎日の潮の満ち引き、台風や荒天時の高潮などでも1メートルを超えることがあるので、堤防建設など防ぐことは可能だ。ただし、それ以上となると、もっと大掛かりな防御策が必要だ。

ニューヨークの36倍の広さの地域の氷が溶けた

 地球の長い歴史で見ると、海面上昇(海進)と海面低下(海退)は何度も繰り返されている。
 日本の歴史で見ると、現代にもっとも近い「平安海進」では、約1〜1.5メートルの範囲で海面が変動している。8世紀初頭の奈良時代の海面は、現在より約1メートル低かったが、平安時代をとおして上昇し、12世紀初頭には現在の海水面より約50センチ高くなっている。
 しかし、この「平安海進」は500年をとおしてのものであり、現代の温暖化のように、100年の間に1メートルを超えるスピードとなると、堤防建設などの対処では追いつかない可能性がある。
 現在、グリーンランドの氷はものすごいスピードで溶け出している。CNNが共同研究グループの報告書を基に報道したところ(2024年02月14日)によると、グリーンランドは1970年代以降、世界平均の2倍のスピードで温暖化が進み、氷が失われた地域は、過去30年間でニューヨークのほぼ36倍に上る2万8707平方キロに及ぶ。
 かつて氷と雪に覆われていた土地は、不毛の岩地や湿地帯、低木地帯に姿を変割ってしまった。

水没リスクの1位はなんと東京、2位ムンバイ

 「氷が解けたら宝島」と、トランプは考えたのかもしれないが、話はグリーンランドだけででは終わらない。
 グリーンランドは南極大陸と同様に、大部分が厚さ3000メートル前後の氷に覆われている。もし、これが溶けたら、そのときは南極の氷も同時に溶けているから、海面上昇はIPCCの「AR6」シナリオをはるかに上回る。
 その場合、世界の名だたる大都市が大きな被害を被る。これまでいくつかの「水没する都市や地域」の予測レポート、研究レポートが公表されている。それらを見ると、東京はもちろん、ニューヨーク、上海、ムンバイなどが、温暖化によって水没するリスクがあるとされている。
 たとえば、データ分析調査を提供する「The Swiftest」の共同創業者マシュー・H・ナッシュは、2022年3月、海面上昇と頻発する洪水によって、世界の36都市が浸水するという予測を公表している。それによると、水没リスクの1位は、なんと東京である。以下、2位ムンバイ、3位ニューヨーク、4位大阪、5位イスタンブール、6位コルカタと続く。
 NASA(アメリカ航空宇宙局)では、IPCCの評価報告書に基づいて、特設サイト「Sea Level Change」で世界の海面水位の将来予測マップを公開している。
 このマップにアクセスして場所をタップすれば、たとえば2100年に神奈川県の横須賀で1.05メートル(SSP3-7.0シナリオ)海面が上昇するといったことがわかる。

この続きは2月14日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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