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NYの “氷彫刻界” でトップを走り続けるのは…日本人が営む岡本スタジオ「始まりは父と1つのアイスマシーン」

氷彫刻制作会社「岡本スタジオ」のオーナー、岡本慎太郎さん(photo: 岡本スタジオ提供)
ニューヨークの氷彫刻業界で右に出るものはいないと言っても過言ではない「岡本スタジオ」。今は亡き岡本武夫(父)さんと2003年にビジネスを立ち上げた岡本慎太郎さんは、当時を振り返りながらこう語る。
「周りからは絶対にやらないほうがいいって言われたのですが、父と目を合わせたら『めっちゃいいじゃん』って」

クイーンズ・アストリアに作業場を構え、結婚式や企業イベント、ブランドのプロモーション、映画プレミアなどのために特注の氷の彫刻やインスタレーションの制作を請け負い、毎日大忙し。また、今やどこのバーでも見かける良質な「カクテルアイス」の火付け役でもある岡本スタジオ。その始まりの物語とは?
きっかけは「アラスカでの寒い冬の夜」
── 氷彫刻に興味を持ったきっかけは?
小さい頃、父が日本食レストランのオーナーをしていた関係で、アラスカ州のアンカレッジに住んでいたんです。ある日、寒い冬の夜に湖に連れて行かれ、友達のパーティーへの手土産として自分たちで彫った白鳥をプレゼントしたんです。するととても喜ばれて、そこから僕が父を手伝いながら、サイドビジネスとしての氷彫刻がスタートしました。
でもその当時はまだ子どもだったし、寒いし、冷たいし、うるさいし、全然楽しくないな、といった印象だったのですが(笑)。

── ではいつ頃から魅力を感じるように?
ちょうど僕が14歳の時、アンカレッジで初めての国際彫刻大会に父のパートナーとして参加したんです。父はその大会のために、2日間ほとんど寝ることなく氷を彫り続けるというすごくストイックな人だったので、僕も必死にサポートして立派な作品が完成しました。そこで出会ったアーティストたち、アイスカービングをするコミュニティーの人たちのユニークさやワイルドさ、情熱に強く惹かれました。この時の経験は、今でも大きな印象として残っていますね。

── もともと岡本さんは幼少期からアートに触れながら育ってきたそうですね。
そうなんです。ずっと絵を描くのが好きでした。それこそアメリカに来たばかりの頃はそこまで英語も話せなかったので、絵を描くことを通して友達を作っていました。ランチタイムには当時上映されたばかりの映画「E.T.」を黒板に描いたりしていると、「絵が描けるんだ!」「これも描いて!」とクラスメイトがワーっと集まってきたりしました。

その後も絵を描き続けていて、ブラウン大学でファインアートと医学を専攻した後、ニューヨーク市立大学ハンター校でアートの修士号を取得しました。その間も父の彫刻デザインは手伝っていたのですが、いざ大学院を修了し進路を決めるタイミングが来た時に、教授の道に進んで決して高くはない報酬の中で厳しい競争の世界に入るのか、それとも自分で何かを始めるのか、迷っていました。そして最終的に親父と「一緒に何かやってみよう」となり、立ち上がったのが岡本スタジオの始まりですね。
「親父は常に『大丈夫』と言ってくれていた」
── 親子二人三脚の物語が、再びスタートしたわけですね。
いざやってみようとはなったものの、当時の氷業界は価格競争が激しく、価格を落とし合い続けた結果、良いものが全然できていない状態だったんです。コネクションも全然なかったので、まずは友達に紹介してもらって日本人のエグゼクティブシェフに会いに行き、「氷彫刻をしようと思うんですけど、どう思いますか?」と話を聞いてもらったんです。 すると「絶対にやらない方がいい」と言われたけれど、父と目を合わせたら「やるしかないね」って。

── 良いものがなかったからこそ、質に目を付けたわけですね。
その時僕は既に10年間ほどニューヨークのアートの世界にいたし、英語にも不自由はありませんでした。父は長年の経験があるから何でも作れるという自信があったので、少々ハイリスクに思える挑戦でしたが、その一歩を踏み出すことができました。まずは氷彫刻をハイアートとして認めてもらえるように、今までにないビジュアルでプロポーザルを作るところから始まりました。

── 信じるものが、親子の絆、そしてこれまで作り上げてきた作品だったと。
父は今までやってきたものを全部売って、家も引き払って、荷物をトレーラーに詰め…2003年の2月、一番寒い時期に約1カ月かけて母と一緒にカナダからアメリカを横断しながらニューヨークに来てくれました。

僕にとっては初めてのビジネスでしたが、父は常に「大丈夫」と言ってくれていて、本当にその言葉だけを信じていましたね。そして家族がニューヨークに到着して、土地探しをしていた時に出会ったのが、クイーンズのアストリア。
初めてのスタジオはイサム・ノグチ美術館のワンブロック離れたところにあったんです。でも氷彫刻を保存するフリーザーをどこで手に入れたらいいのかすら分からない状態だったので、大家さんの友達に簡易的なフリーザーを作ってもらって、父が持っていたアイスマシーン1つで制作を始めました。父の過去の経歴をポートフォリオとして活用しながら、とにかく自分たちにできるものを作り続けて、「声がかかるのを待つ」という孤独な6カ月を過ごしました。

── 当時は今みたいにソーシャルメディアもなかったですしね。
まさにおっしゃる通りで、「どうやって見つけてもらえるんだろう?」と不安ではありました。でも逆に、その時は他のオプションがなく、「やるしかない」という状況でした。ハイリスクに見える挑戦でも、僕たちの場合は並べられるものを並べていたので実はローリスクだったんです。
「他の氷会社がイベントの直前にキャンセルをして…」
── 孤独な半年間を経て、その後花が開く瞬間があったのでしょうか?
大きなターニングポイントで言えば、とあるクライアントがイベント直前に他の氷会社からキャンセルをされて、彼らが「どうしよう!?」と途方に暮れていた時にうちを見つけて注文を入れてくれたことですかね。「あなたたちできますか?」って。

「できます」と、そのまま徹夜してスノーボーダーやアイスバーを作りました。偶然にも、その時に注文してくれたのが、ニューヨークで大活躍しているイベントプランナー兼ケータリング会社だった。そこで「良い仕事をしてくれた」と評価してもらい、そこから次の注文につながるようになりました。ニューヨーク、特にマンハッタンは島なので、口コミの影響力が本当に大きい。そこから他のクライアントにも紹介してくれて、仕事が少しずつ増えていったという感じですね。

── 一つのチャンスをモノにした。
ニューヨークでのビジネスはシビアな始まりでしたが、一度乗ってくると物事が一気に進みました。最初に来てくれたクライアントが本当に良い方々で、今でも一緒に仕事をしていますし、最初からトップと仕事ができたこともありがたかったですよね。 そこから意識していたのは、低価格でやっている他社に対して、自分たちは逆に意味のある値段を設定し、氷彫刻というジャンル自体に新しい土台を作ることでした。それが受け入れられたと思うし、クライアントは「値段に差があるのはなぜだろう?」と興味を持ってくれたんです。

アートって、必ずしも生活に必要なものではない。なくても生きていける。しかし、「これがないとアートのパーティーをやる意味がない」と思ってもらえるような、必要性、魅力、サービスを考えることが、僕たちのチャレンジでした。そして、ビジネスとしての形が「アートプロジェクト」だったら、それは一体どんなものなんだろう? と、ますます好奇心が湧いてきたんです。
◇
アラスカからニューヨークへ、親子二人三脚で切り開いた氷彫刻の世界。形はあれど、いずれは溶けてなくなってしまう氷彫刻に、人々がお金を出したいと思う「価値」を自ら見出した岡本さん。ビジネスをする上で、大事にしている心構えとは? パート2に続く。
取材・文・一部写真/ナガタミユ
Governors Island Ice Sculpture Show
そんな岡本さんが、氷彫刻ワークショップやライブデモンストレーションを行い、氷彫刻アーティストの技術サポートを行う名物イベント「ガバナーズ・アイランド・アイス・スカルプチャー・ショー」が3月8日に行われる。岡本さんが「氷の世界を広げられる、好奇心にあふれたイベント」と意気込むショー。気になった人はぜひ、現地に足を運んでみてほしい。
日時
3/8(日)12:00 – 15:00 (2/7開催予定が延期)
入場無料
会場
Colonels Row Green, Governors Island
公式Webサイト
https://www.govisland.com/
インスタグラム
@governorsisland
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