2026年4月15日 NEWS DAILY CONTENTS インタビュー

「お疲れさま、久下さん」アメリカでの日本語放送の“顔”を28年間務めた久下香織子さん、軌跡を振り返る

フジ・サンケイ・コミュニケーションズ・インターナショナル(FCI)が先月31日、44年間にわたる日本語テレビ放送事業を終了。1998年から28年間、キャスターを務めた久下香織子さんに在任中、印象深かった出来事を中心に聞いた。

久下さんがキャスターを務めたFCIの「Weekly Catch!」は、朝の定番番組として在米邦人に長く愛された(photo: 本人提供)

ジャーナリストとしての生き方変えた

9.11同時多発テロ

9.11同時多発テロ、翌年の大停電や4年ごとの大統領選挙、巨大ハリケーンの来襲や日本人宇宙飛行士を乗せたスペースシャトル打ち上げなど、現場から伝えたさまざまな出来事が今は頭の中で走馬灯のように回っていて、全てが私の宝物になっています。中でもジャーナリストとしての精神や考え方、気持ちの持ちようとか理念を確立できたのが、9.11同時多発テロでした。

あの時は亡くなった方が大勢いて、全てが錯綜した現場でカメラやマイクを向けなければいけないというのが本当につらくて。「土足で入り込んで」と何度かお叱りも受け、「でも伝えなければいけない」というジレンマの中で「もし自分が相手の立場だったら」「この仕事は自分に向いているのだろうか」と自問自答を繰り返す毎日でした。結果、私はこの仕事を続けていきたいと思ったのですが、この気持ちをこれから先ずっと忘れないで仕事をしていこうとその時、心に決めました。その後のインタビューや取材方法が変わったのは9.11がきっかけでしたね。

日本語放送を大きく変えた

新型コロナのパンデミック

ここ数年は、ケーブルテレビだけで情報を得る人たちが少なくなってきて、日本語放送もどこまで続けられるのかと疑問に感じる人も多かったようですが、パンデミックをきっかけに、毎日の放送をYouTubeに載せることによって、世界中から視聴者が集まりましたし、そういう意味で私たちの番組を大きく変えたのはパンデミックだったと思います。

また、スタジオがないと番組は出せないとか、取材に行かないと番組は作れないとか、カメラマンがいないとだめだとか、従来通りの考え方に縛られていたけれど、自宅からでも番組を出すことができた。いろんなものを削って、それでもきちんと番組を出すことができたという新たな発見があって、今までできなかったこともたくさんできるようになったし、視聴者も大きく増やす結果にもなったと思います。

くらしに密着、背景掘り下げ伝えた

一番大切にしてきたことは、中立な立場で生活に密着した情報を伝えるということです。日本で暮らしながらアメリカのニュースを見るのと、アメリカで暮らしながら。アメリカのニュースを見るのとでは必要な情報が違ってくるんですね。例えばガソリン価格の値上がりに関しては、日本で伝えればそれは経済ニュースになるけれど、ここで伝えるときは生活に密着したニュースになる。コロナワクチンについても、いつ、どこでどういう形でワクチンを受けられるのか、医師は何て言っているのかと言ったことを具体的に伝えるのが私たちの使命だと思ってやってきました。

同時に、ニュースの中に出てくる文化的な常識を丁寧に説明することも必ず意識してきました。人工中絶問題や銃規制問題、人種差別問題、今ならICEの移民取り締まり問題だったり。ミネアポリスでICEによって市民が2人殺されましたが、女性はLGBTQで男性は銃を持っていて、トランプ大統領のその後の発言が大きな問題になりましたよね。でも、アメリカに来て日が浅い日本人は、その辺りの背景を知らない場合が多いので、歴史的な経緯とか背景を掘り下げて分かりやすく説明するようにしました。疑問を可視化して理解の手助けをするということですね。

加えて、「ありのまま」を伝えることを重視してきました。例えば、先日行われたボンディ司法長官の上院公聴会の模様なども字幕付きで伝えて、発言者がどんな人間なのかを視聴者に判断していただくスタンスを大切にしてきました。

キャスター、母、妻の3役で突っ走ってきた

綱渡りで、ここまでやってきた感じですね。ボロボロだった時もあるし、もうダメだって思った時もたくさんありましたし。特に子どもが小さくて、まだ手がかかった頃は本当に大変でした。でも、いつも思っていたのは「辞めるのはいつでもできる」と。「もう一日やろう」「明日もう一日頑張ってみよう」と。そうして28年が過ぎた感じです。

私、ちょっと意地っ張りなところがあるので、弱みを見せたくなくて全部自分でやろうとしていたんですが、もうそれはやめようって思って手当たり次第、周りの人に助けを求めました。こちらから助けを求めると、本当にいろんな人が手を差し伸べてくれることに気づきました。

同時にやっぱり主人にもパートナーとして本当に助けてもらいましたね。彼は日系アメリカ人ですが、子育てとは家族を育てることで、その一部が自分だといった認識をしっかり持っている人で、私の中にある「こうあるべき」的な母親像をいい意味で壊してくれました。

リセットして次のステージに

周りの日本人は、みんなが覚えているうちになにかやった方がいいよって、ユーチューバーになりなよ、などと言ってくれるのですが、アメリカ人は休みなさいって。ここまで頑張ったんだから一回休みなさいって、言ってくれるんですね。これはすごい文化の差だなって思います(笑)。

しっかり休んで心身ともにすっきりとした頭で次の人生を考えたいと思っています。この28年間、家族とゆっくり過ごす時間が取れなかったので、一時帰国して家族旅行をするとか。やりたかったけどできないなと思っていたことをリストアップして一つずつやっていき、頭をすっきりさせたら、次に自分がやりたいことがきっと見つかるような気がします。

視聴者と本紙読者へメッセージ

感謝の気持ちしかないですね。スタッフを含めて、視聴者の皆さんのサポートがあったからこそ続けてこられたので。視聴者の皆さんからの「見てますよ」の一言が私たちの原動力となっていたので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

時代の流れとともに情報源がどんどん変わっていく中で、ローカル情報は生活に不可欠です。特に有事の際にはものすごく重要になるので、御社も含めて在米日本人に向けてローカル情報を発信し続けているメディアの人たちを応援していただければと思います。私も応援します!

取材・文/デイリーサン編集部

久下香織子 NHK・BS1、フジテレビ「報道2001」のキャスターを経て、結婚を機に1998年来米。FCIで番組制作とキャスターを28年間務める。第二次世界大戦中の日系人強制収容所、ダニエル・イノウエ元上院議員、ノーマン・ミネタ元米運輸長官、ラルフ・カー元コロラド州知事などのドキュメンタリー制作に携わる。イノウエ元上院議員のドキュメンタリー番組は2014年度の国際メディアコンテスト「ニューヨークフェスティバル」で銅賞を受賞した。乳がんのサポート・啓蒙団体BCネットワークでは創設当初からイベント等の司会を担当。神奈川県横浜市出身。

                       
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