ニューヨークの地下鉄の清掃員の初任給は20.89ドル(1ドル160円換算で約3300円)。ニューヨーク市の最低時給は17ドルで、全米平均の32.23ドルから考えれば「低い」と言っても過言ではない。それにもかかわらず、募集のたびに数万人が応募する「狭き門」となっている。

人が嫌がる仕事といわれる清掃だが、MTAなら大きなベネフィットが付いてくる(photo: Unsplash / Robinson Greig)

約3700人が働く「地下鉄清掃員」

10日付ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ニューヨーク州都市交通局(MTA)が2025年2月に募集した際には、約4万9500人が応募。前回の2022年には約7万5000人が応募し、採用まで3~4年待つケースも珍しくないという。

MTAには現在、約3700人の地下鉄清掃員が勤務している。仕事内容は駅構内やホーム、エスカレーター、改札周辺の清掃、ゴミの回収など。時には嘔吐物や排せつ物の処理、大型ゴミの撤去などを行うこともあり、体力だけでなく精神的な負担も少なくない。タイムズスクエア駅で働く清掃員の一人は、「食べ終わった皿をわざと床に投げて、『掃除しろ』と言われたこともある」と話しており、利用客とのトラブルに遭遇することもあるという。

初任給は時給20.89ドル

地下鉄清掃員はMTAの中でも給与水準が最も低い職種の一つだ。勤続6年で時給34.82ドルとなり、年収換算では約4万3450~7万2400ドルとなる。ニューヨーク市が非営利のシンクタンク、アーバンインスティチュートと共同で算出した単身成人の最低年収ライン7万ドルを大きく下回り、生活コストや物価が高いニューヨーク市においては、単身はもちろん家族を養うには厳しいという声も多い。

人気の理由は「給与」ではなく福利厚生

初任給は低いものの、医療・歯科・眼科保険の自己負担が少なく、年金制度など福利厚生が充実していることが人気の理由の一つだ。実際、レストラン勤務から転職した女性は、以前は自分と娘の医療・歯科保険だけで毎月約400ドルを支払っていたが、MTAに入ってからは保険料の負担が大幅に減ったという。

「MTAでキャリアを築く第一歩」

地下鉄清掃員は、MTA内でキャリアアップを目指す入口としても人気だ。勤務実績を積み、公務員試験などに合格すれば、駅係員や駅長、車掌、運転士などへ昇進する道が開かれる。例えば駅係員の初任給は時給33.33ドル、車掌は26.70ドル、地下鉄運転士は42.84ドルからスタートする。清掃員として採用された33歳の女性は、「家族を養うには今の給料だけでは大変。でもMTAには将来につながるキャリアがある。ここで未来を築いていきたい」と語っている。

「安定した仕事」が選ばれる時代へ

ニューヨークでは、特に公共部門の労働組合加入率が高く、2025年時点で公共部門労働者の約65.6%が組合に加入している。これは全米平均を大きく上回る水準だ。かつては「高収入」が魅力だったニューヨークでも、近年は医療保険や年金、雇用の安定性を重視して公的機関への就職を希望する人が増えている。地下鉄清掃員への応募者が毎回数万人に上る背景には、そうした時代の変化が映し出されている。