ロシアによるウクライナ侵攻後、欧米各国は多数のロシア情報員を国外追放したが、その一部が日本に活動拠点を移したと、ニューヨークタイムズが13日、伝えた。日本はスパイ行為を直接取り締まる法律が弱く、対外情報機関もない。他方、アメリカは世界でも特に強力な防諜体制を持つ国の一つ。ニューヨーク市ではここ10年で、中国・ロシアの政府機関や情報機関が関与する事件が複数摘発されている。

アメリカでは国家機密を盗むこと以外にもサイバー犯罪や虚偽のビザ、FBIへの虚偽供述、マネーロンダリングなどさまざまな罪で摘発・訴追する法制度が整っている(photo: Unsplash / Sergiu Nista)

NYは世界最大のスパイ拠点

アメリカで一般に「スパイ事件」と報じられるものには、国家機密を盗む典型的な諜報活動だけでなく、反体制派の監視、無届けの外国政府代理人、秘密警察活動、軍事転用可能な技術の調達なども含まれる。冷戦時代は、映画のような「機密文書を盗むスパイ」が中心だったが、現在摘発される事件の多くは、越境弾圧(亡命者や反体制派への監視・脅迫※)、先端技術の調達(半導体、AI、航空技術)、政治的影響工作(2016、20、24年の大統領選挙が典型的な例)、サイバー攻撃・情報窃取、制裁逃れのネットワーク構築などだ。

ニューヨークには国連本部や金融街、コロンビア大学やニューヨーク大学(NYU)などの研究機関、世界中の企業本社、大規模な移民・亡命コミュニティーが集まるため、外国諜報機関にとっては「世界でも最重要拠点の一つ」と言われている。ニューヨーク市内で発生した主な事件を整理する。

※越境弾圧=ある国の政府が、自国を離れて外国で暮らす人々を、国境を越えて監視・脅迫・沈黙させようとする行為。FBIや国連、人権団体が近年、特に警戒している新しい安全保障上の課題の一つ。標的になりやすいのは、中国民主化運動家、香港民主派、ウイグル人、チベット人、台湾独立派、ジャーナリスト、元政府関係者など。FBIは、特に中国、イラン、ロシア、北朝鮮からの越境弾圧を警戒している。

NYで中国が関与した主な事件

1. 秘密警察署事件(2023年)中国公安省の「海外警察署」をローワーマンハッタンで運営。中国政府批判者の監視や所在確認などを行ったとされる。関係者は違法代理人として有罪答弁・有罪評決を受けた。

2. リンダ・サン事件(2024年) ホークル州知事らの元側近が、中国政府・中国共産党の利益のために州政府内で働いたとして起訴。台湾政府との接触を妨げるなどの影響工作があったとされる(裁判継続中)。

3. 民主活動家への監視
中国国家安全省の指示を受け、ニューヨークの民主活動家や香港・ウイグル・チベット系活動家の情報を収集したとして複数の人物が起訴・有罪となった。

• 王書君事件(2024年)クイーンズで民主活動家を装いながら、中国国家安全省のために活動家の情報を収集したとして有罪評決
• 唐元隽事件(2025年)クイーンズ・フラッシング在住の民主活動家が、中国国家安全省の指示で反体制派を監視していたとして有罪答弁。

NYでロシアが関与した主な事件

1. エレナ・ブランソン事件(2022年) ロシア政府の無届け代理人としてニューヨークでロビー活動などを行ったとして起訴。本人はロシアへ出国。

2. セルニヤ・ネットワーク事件(2022年) ロシア情報機関や軍需産業向けに先端電子部品を調達していた国際ネットワークをブルックリンで起訴。

3. 軍事転用部品の不正輸出事件(2023年) ブルックリンなどを拠点に半導体などをロシアへ不正輸出。部品はウクライナで回収されたロシア軍兵器から確認された。

4. ノンマ・ザルビナ事件(2026年)ブルックリン在住のロシア国籍者が、FSB(ロシア連邦保安局)との関係についてFBIに虚偽説明をした罪などで有罪答弁。

中国関連は、2023年以降に摘発が相次いでいるが、これは、FBIが「越境弾圧」への取り締まりを強化したことが大きな背景と考えられる。ロシア関連は、22年のウクライナ侵攻以降、軍事転用技術や制裁逃れに関する事件が急増している。