世界は今、大きな転換期を迎えています。
地政学的リスクの高まり、地球温暖化の進行、そしてAIによる急速な技術革新。これらは一国で完結する課題ではなく、国境を越えて向き合うべき地球規模のテーマです。
だからこそ、これからの時代に求められるのは、世界を俯瞰し、自らの軸を持って行動できる力です。
その動きは既に始まっています。慶應義塾大学や早稲田大学が帰国生入試の縮小・廃止を打ち出したことも形式的な「帰国生」という枠を超え、実質的な経験と質を伴った人材を求める流れの一端といえるでしょう。
では、海外にある日本人学校・補習授業校は、これからどのような役割を担うべきなのでしょうか。ニューヨークで日本人子女教育に関わる3人に、対談を通じて聞きました(敬称略)。


巽 孝之
慶應義塾ニューヨーク学院長。1955年東京都渋谷区恵比寿生まれ。上智大学卒業。コーネル大学大学院博士課程修了(Ph.D,1987年)。現在、慶應義塾大学文学部名誉教授(21年〜)を経て現職(22年〜)。アメリカ文学思想史・批評理論専攻。日本英文学会監事、
アメリカ学会理事、日本アメリカ文学会第 16代会長を歴任。
09年から北米学術誌The Journal of Transnational American Studies 編集委員。

綿引 宏行
海外子女教育振興財団理事長。1957年2月東京浅草、浅草寺の真横で誕生。79年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社、2009年から米国東京海上社CEO(2010〜11年ニューヨーク教育審議会副会長)。13年東京海上日動火災保険 常務取締役、
16年東京海上日動HRA 代表取締役社長、20年から(公)海外子女教育振興財団理事長。

武田 秀俊
DAILYSUN New York President / ニューヨーク育英学園理事長兼学園長。1977年大阪生まれ。京都大学経済学部卒業(2001年)、
インディアナ大学経営大学院(ケリースクール)修士卒業(05年)。りそな銀行、PwC、Permal Asset Management、CMIC Holdingsを経て現職。京都大学成長戦略本部アドバイザー、(公)海外子女教育振興財団アドバイザー。その他、中央教育審議会臨時委員、横浜市教育委員会委員など。
Q1.帰国生入試の縮小は、何を意味しているのでしょうか?
巽: 「帰国生」という枠には幅があります。英語ができても、その背後にある文化を理解しているとは限らない。言語を翻訳できても、文化を翻訳できないことがあるのです。
いま求められているのは、単なるバイリンガルではありません。文化を横断し、自らの軸を持って行き来できる力です。慶應では“トライカルチャー”という概念を掲げています。日米に加え、福澤諭吉先生ゆかりの思想的軸を持つこと。そこまで踏み込んだ人材像が問われています。
綿引: 英語力は前提条件であって評価軸ではありません。多文化環境で社会課題を理解し、異なる背景を持つ人々と協働できるかどうか。帰国生枠の見直しは、本質的なグローバル人材をどう見極めるかという段階に入ったことを示していると思います。
Q2.地球規模の課題が広がる時代に、日本人学校は何を育てるべきでしょうか?
巽:AIが進化する時代に問われるのは、思考の深さと人格の厚みです。知識を持っていることと、使いこなせることは違います。体験を重ねることと、その体験を自分の内面に落とし込めることもまた違います。
大学入試の現場でも、「何を経験したか」よりも、「その経験をどう解釈し、自分の言葉で語れるか」が問われています。
多文化環境にあるニューヨークでは、価値観の違いが日常です。その違いを理解し、自分の立場を整理し、言語化できる力こそが重要です。
武田: そうした時代背景を踏まえ、私たちが掲げているのが「世界に羽ばたけNY育英っ子!」という標語です。目指すのは、“ニューヨークならではの日本教育”です。
日本の学校以上に日本を「理解」し、現地校以上にニューヨークを「体験」する。そのうえで、常に、挑戦、挫折、また挑戦を繰り返しながら、世界で活躍できる力を育てます。教育は三つのタイプで構成しています。
知識教育では、日本の学習指導要領に準拠しながらも、日米、そしてグローバルな視点に立ち、日本や世界を相対的に俯瞰できる力を身に付けます。
体験教育では、ニューヨークの特性を生かし、国際機関や世界的アート、グローバル企業との出会いを通じて学びを“現実”に結び付けます。体験を通じて価値観を相対化し、知識を実力へと転換していきます。
人間教育では、大人として“生きていく力”を身に付けます。社会やグループの中でのふるまい方を学び、多様な考え方や文化の違いを理解し、「Respect Each Other」を実践できる力を育てます。
ただし、この三つの教育が機能するためには“土台”が必要です。私たちは、メンタルヘルスと情操教育をその土台と位置付けています。挑戦・挫折・再挑戦の循環を可能にするためには、心身の充実が不可欠です。

Q3.ニューヨークという都市は、教育にどんな可能性を与えるのでしょうか?
綿引: 日本国内で語られる“グローバル”とは異なり、ここでは多文化環境が日常です。その経験は日本企業や社会にとっても大きな価値を持つはずです。
日本の経済や社会は今後も国際的なつながりの中で発展していきます。その中で求められるのは、単に海外経験がある人材ではなく、多様な価値観の中で意思決定ができる人材です。ニューヨークで育つ経験は、その基礎を日常の中で培う機会を与えてくれます。
武田: ニューヨークは「小さな地球」です。多様な文化や価値観が交差する環境の中で、子どもたちは自然と相対化の力を身に付けます。
世界的企業、国際機関、アート、スポーツ。圧倒的な機会の中で育つ経験は、子どもたちの視野を広げます。同時に、学校は教育機関であるとともに、コミュニティーのハブにもなり得ます。
子どもたちだけでなく、保護者、卒業生、企業、地域社会が集い、つながる場所。地域と連携したバザーや公開行事、企業出張授業などを通じて、学びは学校の外へと広がります。自前の校舎を持つということは、世代を超えて同じ場所に集い続けられる拠点を持つということでもあります。
ニューヨーク市内から最も近く、校舎も保有する在外教育機関として、ニューヨーク育英学園では、今後もコミュニティーのハブとしての役割も積極的に果たしていければと考えています。
Q4.在外教育は、これからどのように進化すべきでしょうか?
綿引: 日本人学校、補習授業校、現地校。それぞれを個別に見るのではなく、エコシステムとして連携する視点が必要です。
巽:教育は子どもたちの内面に灯を点すこと。種を蒔き続けることです。その姿勢こそが、これからの在外教育に求められるのではないでしょうか。
武田: 海外での経験を単なる体験で終わらせない。学力や人格形成にどう結び付けるか。またコミュニティーエコシステムの力をいかに強化し、教育に取り込めるか。その設計力が問われています。
今年9月、ニューヨークでは「これからの日本人学校・補習授業校のあり方」をテーマにしたシンポジウムが予定されています。
形式から本質へ。経験から実力へ。ニューヨークから、新しい教育のかたちが動き始めています。
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