7月1日に行われたサッカー・ワールドカップのアメリカ対ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で、アメリカ代表のストライカー、フォラリン・バログン選手に科されたレッドカードと出場停止処分をトランプ大統領が取り消させ、世界中を騒然とさせている問題。サッカー団体やファンから激しい非難と反発が上がる中、アメリカ世論やメディアの論調は真っ二つに割れている。一連の流れをまとめた。

写真はイメージ(photo: Unsplash / Frank Huang)

根拠ない八百長疑惑を持ち出す

トランプ氏は1日の試合終了後、FIFA会長のジャンニ・インファンティーノ氏に直接電話をかけたことを認めたが、単に「再検討」を求めただけであるとして、自分の行動を擁護。電話でトランプ氏は試合の主審ラファエル・クラウス氏に対する(根拠のない)八百長疑惑を持ち出したとされる。ハワード・ルトニック商務長官とアンドリュー・ジュリアーニ(ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長の長男)を筆頭とする政権高官たちは、米サッカー協会の主要な寄付者と連携、トランプ氏に親しい有力な弁護士たちを動員し、FIFAのスローモーションVARリプレイの使用について圧力をかけるための法的論拠を積極的に作成しトランプ氏の介入を援護射撃した(7月5日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。

FIFA会長のジャンニ・インファンティーノ氏(photo: Lula Oficial, https://www.flickr.com/photos/157736962@N05/55062516828/)

ホワイトハウスからの介入を受けてFIFAは5日、同処分を撤回し、バログン選手が6日に行われるベルギー戦に出場可能になると発表した。

このような決定の撤回は極めて異例であり、ワールドカップで退場処分を受けた選手が出場停止期間中にもかかわらず試合に出場を許可されたのは1962年以来初めてのこと。インファンティーノ氏は長年にわたり、トランプ氏の歓心を買うことに努めているのはよく知られた事実で、トランプ大統領がノーベル平和賞の受賞を目指して公にキャンペーンを展開し失敗した昨年、「FIFA平和賞」を急遽創設しトランプ氏に授与。世間からは“茶番”と嘲笑された。 

世論は保守とリベラルで再び分断

アメリカの世論は、保守とリベラルで分断する現在のアメリカを反映している。トランプ氏を支持する、いわゆるMAGA層は大統領の行動を不適切な審判に対する決定的な勝利として称賛。テキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員(共和)をはじめとする著名政治家たちは、アメリカのサッカーファンを代表して、トランプ氏が「あのばかげたレッドカードを取り消してくれた」ことに公に感謝の意を表した(7月6日付ガーディアンズ)。

一方、世界のサッカー組織からは激しい反発が出ている。FIFA元会長のゼップ・ブラッター氏は「レッドカードは政治的な電話一本で覆されるものではない」と指摘。ノルウェーのストーレ・ソルバッケン氏をはじめとする各国の代表監督たちは、この「極めて悪い判断」がワールドカップの歴史に永久に汚点を残すだろうと警告。サッカーファンや批評家も、アメリカ代表が純粋に実力だけでベスト16進出の座を勝ち取ったと認めながらも、今回のような裏での政治的取引はチームの功績に消えない汚点を残すことになると主張している。アメリカの代表の選手たちでさえも愕然としており、ディフェンダーのクリス・リチャーズ選手は、チームが当初このニュースを「AIが生成した」偽情報だと考えていたことを認めている(7月5日付ESPN)。

天秤に親指?それとも愛国的行動?

メディアの反応からも政治的・地域的な深い亀裂が浮き彫りになっている。イギリスのガーディアンやニューヨークタイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナルなどの国際メディア大手は、この決定を「歓迎すべきではなく、不当なスポーツマンシップの侵害」と非難。トランプ氏が「天秤に親指を乗せる」ような行為をしたことで、ワールドカップの公正性を完全に損なったと主張している。

その一方で、保守系メディアやコメンテーターは、トランプ氏の介入を激しく擁護。彼らは、この決定の覆しを根本的に欠陥のある審判の判定を正した「愛国的な力強い行動」であると位置付け。国内の主要スポーツネットワークは、このショッキングな決定が批判派に汚職疑惑を煽る強力な材料を提供している一方で、アメリカ男子代表にとっては、エースストライカーが復帰することで最終的に利益になると指摘している。