あれこれNY教育事情 子どもが学校に行かなくなったとき(2)児童相談所の介入

 子どもが学校へ行かなくなる、行きたいけれど行けなくなる。理由はさまざまだが、どの家庭にも起こり得ることだ。ただし、その際の対応は日米で違いがある。
 まず米国では児童相談所に始まり家庭裁判所に至る介入がある。形式的な面もあるが、知っておくといざ調査員が自宅のドアを叩いたときに冷静でいられる。長期欠席に関する法律は州や自治体により名称、規則の範囲なども含めてそれぞれ差がある(前回4月号で紹介=www.dailysunny.com/2019/03/23/arekoreny0410 を参照)。今回はニューヨーク市での例を挙げるが、大筋はどの地域でも同じと考えてよいだろう。

長期欠席と児童相談所への通報

精神的なストレスから学校への欠席が続く子どもの保護者が、登校しなくなってすぐに学校のガイダンスカウンセラーやソーシャルワーカーと連絡、面談を始めた。子どもも学校へ行かなければいけないことは分かっているが、朝になるとどうしても登校できない。学校のカウンセラーやセラピスト、外部の専門家を訪ねるなど家庭も本人も努力はしても、それすらもストレスだ。真面目であればあるほど、学業の遅れや人目も気になり、さらに登校が困難になり症状は悪化する。これが一般的な不登校の始まりだ。
 日本では、「慌てずに様子を見ましょう」という流れになるかもしれない。
 しかしニューヨーク市で担当のガイダンスカウンセラーに、「もしこのまま欠席が続いたらどうなるのでしょう?」と聞くと「ACSに連絡しなければならなくなります」と言われるかもしれない。ACSは Administration of Children’s Service のことで、他の地域ではCPS=Child Protect Service として知られる、日本の児童相談所に相当する機関だ。
 ガイダンスカウンセラーに、「考えられるあらゆる方策をとって努力しても、転校もホームスクールも嫌、カウンセリングも医者も拒否、ただ学校へ行かなくなり、われわれ(保護者)にも反抗してどうにもならない状態(日本でいうひきこもり)になったら、次はどうなるのでしょう?」と質問したとする。その場合、ガイダンスカウンセラーは、「家庭裁判裁判所に行きます。保護者のコントロールが効かなくなり、PINS(Person In Need of Supervision)と判断されると、家庭裁判所が子どもに通学しなさいという命令を出します」と答えてくる。

家庭裁判所の介入

 これは極端な例であり、もちろん家庭裁判所の介入になるまでにはさらにいくつかの審査や状況判断がなされるが、日本でいうひきこもり状態の不登校になったとき、米国では最悪の場合、親権が裁判所に移り、裁判所から子どもに対して通学命令が出るという段階的なステップが決められている(注:通学は物理的な校舎への登校のみでなく、ホームスクールなどを含む学習環境への復帰の意味)。
 Person In Need of Supervision とは「18歳以下で、学校へ行かない者、制御が効かない、または危険な問題行動する者、保護者や監護者に従わない者」のことで、PINSに認定されると、家庭裁判所やそれに準ずる機関の介入が始まる。通学、学習を拒否し、保護者のコントロールも効かなず、何もせずにひきこもる子どもがPINSと認定される可能性はある。ただし非行と同列という意味ではなく、子どもが義務教育を受ける環境に復帰するための「良かれ」とされる介入システムが日本と比較して発達していると捉えるほうが妥当だろう。

ACS通報への問題

 日本では「慌てずに様子を見ましょう」という流れで、フリースクール、通信制学校、支援センターなどにも参加せず、長期欠席のままでも義務教育の小・中学校を卒業できるケースが多いと聞く。つまり次の進学先へ進むための修了証書が手に入るが、米国では義務教育期間の子どもが数カ月何もせずに家にいるということが許されないシステムになっており、修了証書も得られない。保護者がその状態を放置すると「教育のネグレクト」という虐待とみなされる。子どもが学校へ行かなくなったときにACSが介入し調査員の訪問が行われるのは、ネグレクトでないことの確認と家庭への支援が目的であり、それらの一連の流れは迅速といえる。
 ニューヨーク市では教育局とACSが協力し、長期欠席の生徒に対し、保護者への連絡、面談など取るべき手段を定める。それらに応じなかったり、専門家の支援・介入に積極的でないなど、学校が保護者のネグレクトを疑う理由があると感じた場合、ACSへの通報義務がある。
 しかしながら、実態は精神的な問題や発達障害のことを相談していても、欠席状態に改善がみられず一定期間以上登校のない場合、いわばACSへ丸投げという形で通報がなされるケースも多い。反面、保護者が学校では良い顔を見せているが、家庭内では正反対のことが起こっているというケースが存在することは、日々のニュースからも想像に難くない。そのため通報義務は「虐待かどうかを判断する」ことではなく「判断する機関に伝える」とされているが、自己判断で通報しないまま、後に問題が起こった場合の責任問題もある。保護者が学校と密に連絡を取り合っていれば「ACSに知らせなければなりません」と事前予告してくれる場合もあるようだが、予告なしにACSの調査員の訪問を受ける家庭も多い。
 ACSの訪問は、どの保護者にとってもショックだが、なにより既に重すぎるほどの精神的なストレスを抱えて苦しんでいる子どもにとって、見知らぬ大人が訪問し、恐怖心で自分の部屋に隠れてもドアを開けさせようとすることが、本当に子どものために良いことなのかという議論は米国でも多くなされている。それでも本当に子どもが危険な状態であるかどうかは、調査員には分からない。調査委員も人により対応はさまざまで、やさしく諭す態度の人もいれば、威圧的な人もいる。とはいえ、子どもに刺激を与えないようにと、何も手を打たないまま数カ月、数年と時間が経つことが長期のひきこもりの原因になることも知られている。日米の対応の違いは不登校問題への認識の差でもある。(次回へ続く)
(文/河原その子)