安野モヨコの漫画「鼻下長紳士回顧録」を原作とするミュージカル「MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN」が、ついに10月15日、ニューヨークのオフ・ブロードウェイで正式開幕。日本の漫画を原作に、脚本・音楽・演出を英語オリジナルで作り上げる史上初の試みが、本格的に幕を開ける。

舞台は20世紀のパリにある娼館「ナイト・エッグ」。恋人への思いを断ち切れない主人公コレットが、書くことを通して自分の人生を歩き始める物語だ。英語での観劇をより楽しめるよう、登場人物とあらすじ、全14曲、物語の鍵となる3つの言葉を紹介する。
※ あらすじと曲紹介には結末を含むネタバレがあります。
登場人物とそれぞれの関係
コレット(Colette)
ナイト・エッグで働く主人公。機転が利き、客をよく観察する一方、幼なじみの恋人レオンには弱い。サカエから渡されたノートに、店の出来事や自分の思いを書き始める。

レオン(Leon)
コレットの恋人。画家を夢見て彼女とパリへ来たが挫折し、今では彼女の稼ぎに頼っている。貧しい出自から抜け出したいという思いを抱え、高級娼婦ナナに惹かれる。

サカエ(Sakae)
日本から来た作家志望の青年。裕福な家に育ち、小説の題材を求めてコレットに執筆を依頼する。彼女の才能に気づく一方、自分自身も創作や恋愛で行き詰まっている。

ナナ(Nana)
かつてナイト・エッグで働き、今は独立した高級娼婦。自分の価値をよく知り、望むものを手に入れるために行動する。レオンやサカエとも関わり、コレットの人生に大きな影響を与える。

マダム(Madame)
ナイト・エッグの経営者。女性たちを気遣う一方、店の利益と秩序を守るためには厳しい態度も取る。コレットにとって、頼れる存在であると同時に逆らいにくい相手でもある。

イヴィ(Ivy)
知的で冷静なコレットの同僚。彼女に恋心を抱き、レオンとの関係を心配している。コレットの執筆を支え、文章を外の世界へ届けるきっかけを作る。
ミニョ(Mignot)
仕事に誇りを持つ、頼もしい同僚。ナイト・エッグを自分の家と考え、ここで生きる道を選んでいる。コレットに厳しい言葉をかけながらも、最後には彼女の旅立ちを助ける。
カルメン(Carmen)
優しくロマンチックな同僚。恋人が迎えに来て結婚してくれると信じ、長く待ち続けている。日々の仕事やかなわない願いの中で、次第に追い詰められていく。
客たちにも注目したい。鳥として扱ってほしいヘンリー(Henry)、脚の毛を剃ってもらいたいウィリー(Willy)、トランクから女性たちを覗き見るエミール(Emile)、犬として見られたいユリス(Ulysse)。彼らの願いに応える日々も、コレットが書く物語の題材になる。

物語のあらすじ
娼館「ナイト・エッグ」で働くコレットは、仲間の女性たちと客の話で笑い合いながら暮らしている。しかし恋人レオンとの関係は、周囲が心配するほど危ういものだった。借金を重ねる彼に、母の形見のネックレスや給料の前借りまで渡してしまう。母を亡くした時に支えてくれた彼との記憶が、いつか二人で幸せに暮らせるという期待を捨てさせなかった。

そんなコレットに、作家志望のサカエが一冊のノートを渡す。書いてほしいのは、「何があなたを笑わせるのか(What makes you laugh?)」「何があなたを泣かせるのか(What makes you cry?)」「あなたは何を切望しているのか(What do you long for?)」「あなたの、人には言いにくい欲望や好みは何か(What is your perversion?)」という四つの問いへの答え。依頼をきっかけに、コレットは客や仲間のこと、レオンへの思いを書き始める。

一方、レオンは高級娼婦ナナのもとへ通い、コレットから預かった母の形見のネックレスまで贈っていた。借金取りに追い詰められると、ナナを危険にさらし、彼女の客として居合わせたサカエに金を払わせる。さらにコレットから受け取った金でナナと旅立とうとするが、ナナは自分を利用した彼を許さない。借金取りに居場所を知らされたレオンは殺され、最後にコレットの名を呼ぶ。コレットがまだ彼の帰りを待っている間に、二人の未来は失われていた。
ナイト・エッグでも、コレットの大切な日々が揺らぎ始める。恋人を待ち続けていたカルメンは接客中に激しく抵抗し、罰として地下室へ連れていかれる。コレットは助けようとするが、仲間たちにもここでの生活を守らなければならない事情がある。サカエも金を使い果たし、コレットの原稿を否定して去ってしまう。やがてナナからレオンがもういないと告げられたコレットは、悲しみの中に取り残される。

それでもコレットは書き続ける。サカエやカルメンの行方を思いながら、二人が出会い、寄り添う物語を書く。レオンと結婚し、娘を授かる未来も描いてみる。これらは実際の出来事ではなく、ノートの中に生まれた時間だ。書いても失った人を連れ戻すことはできないが、言葉にすると苦しみが少し静まる。イヴィの勧めや、書いたものを受け止める客ユリスとの出会いから、彼女は自分の文章を人に届けようとする。

やがて文章が新聞のコンテストで選ばれ、掲載される。仲間たちは喜ぶが、秘密を知られることを恐れた客からの苦情で、コレットは店を解雇されてしまう。借金も居場所も気にかかる彼女に、ミニョが前借りの返済を引き受けると申し出る。自分は店に残ると決めた仲間に助けられ、コレットはナイト・エッグを出る。
外での暮らしは、思い通りに進むことばかりではない。それでも出会いや経験を書き続け、コレットは職業作家となる。彼女の本を待つ若い読者に伝えるのは、かつてサカエから受け取った四つの問いだった。愛した人や失った仲間への思いも、自分の言葉で誰かに届けられるようになった彼女の人生は、新しい時間へと進んでいく。
物語を楽しむための3つの言葉
Desire(デザイア)|欲望、願い
「こうしたい」「こうなりたい」と強く望む気持ち。性的な欲望だけでなく、愛されたい、豊かになりたいという願いも含む。登場人物がそれぞれ「何を求めているのか」に注目すると、行動の理由が見えてくる。

Perversion(パーヴァージョン)|人には言いにくい欲望や好み
本作では、鳥や犬として扱ってほしいという客たちの性的な願いを指す言葉。コレット自身も、傷つけられるとわかっていながらレオンを求め続ける気持ちを、自分の「perversion」と呼ぶようになる。
Muse(ミューズ)|創作のきっかけになる人
作家や芸術家に「この人のことを書きたい」「作品にしたい」と思わせる存在。コレットにとってのミューズはレオンだ。彼を愛して苦しんだ経験が、彼女自身の物語を書くきっかけになっていく。
全14曲を上演順に紹介
1 「Your Perversion Is Our Pleasure」
ナイト・エッグの女性たちが客を迎え、それぞれの風変わりな願いに応える。
2 「Sakae’s Song」
サカエがコレットにノートを渡し、彼女自身の経験や思いを書くよう勧める。
3 「Leon(It Makes No Difference)」
レオンとの記憶をたどり、裏切られても離れられないコレットの思いを歌う。
4 「Obvious」
マダムや仲間たちが、コレットを利用するレオンとの関係に警告する。
5 「Look Who’s Coming (Ain’t That Something)」
レオンがナナを訪ね、貧しい過去から抜け出したい野心と欲望を歌う。
6 「Immured」
別の女性の香水に気づいたコレットが、この恋から抜け出せない苦しさを歌う。
7 「Hoops」
ナナに夢中のレオンが、彼女と旅立つ未来を思い描くが、命を落とす。
8 「Probing」
レオンへの執着を見つめ、彼を自分の創作の題材にしようとするコレットの歌。
9 「Inside Looking Out」
トランクに隠れた客の接客中、カルメンが激しく抵抗し、連れ去られる。
10 「On Any Given Night (Nana’s Song)」
ナナが自分の価値を守る生き方を歌い、レオンはもういないと告げる。
11 「Birds」
コレットの創作の中で、サカエとカルメンが出会い、互いに寄り添う。
12 「When You Die」
大切な人を失ったコレットが、悲しみを抱えながら書き、生き続ける。
13 「Sometimes in the Evening」
レオンと結婚し、娘を授かるという、コレットが書いた未来が歌になる。
14 「Look at the Sky」
作家となったコレットと、彼女のページの中で生き続ける人々のフィナーレ。
MEMOIRS OF AMOROUS GENTLEMEN
期間
10月15日(木)〜2027年1月3日(日)
場所
The Night Egg at the Culture Club
(530 W. 27th St.)
チケット
49ドル〜
公式サイト
https://www.memoirsmusical.com/















