連載746  ウクライナ戦争を読み解く(2) アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (中)

連載746  ウクライナ戦争を読み解く(2)
アメリカは対ロ政策を間違えた ビクトリア・ヌーランドの裏工作と腐敗政権 (中)

(この記事の初出は3月16日)

 

ヌーランドはバリバリの「ネオコン」

 ところで、なぜ、アメリカの上院は、国務省ナンバー3のヌーランド次官を議会ヒヤリングに呼んだのだろうか?
 また、ヌーランド次官とは何者なのだろうか?
 プロファイルを確かめると、彼女は1961年ニューヨーク生まれ、父親は生命倫理学者で、父方の祖父はロシアから移民したウクライナ系のユダヤ人。ブラウン大学を卒業後、国務省に入省して、外交官としてキャリアを重ねてきた。
 そのキャリアのなかには、2003年から約2年間、アメリカによるイラク占領中に、ディック・チェイニー副大統領の外交政策担当補佐官だったこと、2011年から2013年の間、国務省報道官を務めたことがある。これらのキャリアでの彼女の言動と、夫がブルッキングズ研究所上席フェローでユダヤ系のロバート・ケーガンであることを知れば、バリバリの「ネオコン」であることがわかる。
 彼女のネオコンぶりが発揮されたのが、2014年のウクライナ危機である。当時、オバマ政権の副大統領だったバイデン氏および政権内のネオコンと組んで、彼女は親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領を追放し、政権を転覆させたのだ。

「EUなんてクソ食らえ」で政権転覆

 この政権転覆劇は、アメリカが仕組んだクーデターであり、暴力による革命だった。なぜなら、当時、国務省次官補だったヌーランドは、ウクライナの極右勢力に資金援助をして、武装訓練までして解き放ったからだ。
 当初、バイデン副大統領は、「いかなる条件下でも、戦闘はするな」と言っていたというが、彼女はそれを無視した。
 2014年2月、キエフのマイダン広場での政府に対する抗議運動が警察との戦闘に発展すると、ヤヌコヴィッチ大統領と西側が支援する野党は、フランス、ドイツ、ポーランドが仲介により、国民統一政府をつくり、年内に新しい選挙を実施するという協定案に署名した。
 しかし、それでは満足できない極右でアメリカが組織化した民兵グループ「右翼セクター(Right Sector)」は、国会議事堂を襲撃し、ヤヌコヴィッチ大統領と国会議員たちを力で追い出したのである。 このウクライナ危機の際に、ヌーランドと駐ウクライナ
大使のジェフリー・パイアットとの電話音声が流出した。そのなかで、ヌーランドは「EUなんてクソ食らえ」(Fuck the EU)」と言っており、これが大問題になった。しかし、国務省は彼女をかばい、謝罪だけですませた。
 こうしたアメリカによる政権転覆劇が、その後、ロシア系住民の保護を名目にしたプーチンの「クリミア併合」の引き金となったのは、間違いない。

(つづく)

 

この続きは4月14日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 


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